観音さまへの深い信仰と、親子・男女の愛の物語です。
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備中の守、さねたかの娘として、
たいせつに 育てられていた 姫君がいました。
しかし、
姫が十三のとき、母が、亡くなりました。
亡くなる直前に、
母は、
姫の行く末を 心配し、
観音さまにを 頼りにされ、
誓いとして、大きな鉢を 姫にかぶせました。
その後、
姫は、
継母に いじめられ、
父親にも 見捨てられ、家から追い出されてしまいます。
亡き母のもとへと、
川に身を なげますが、
鉢のために 沈むことができません。
国司の中将が、
ふびんな鉢かづきに 湯殿の火をたく 仕事を与えます。
しかし、むすめの鉢は、とれませんでした。
四番目の息子の宰相が、
鉢かづきの
優しい声や
手足のうつくしさに ひかれました。
「かならずや、いっしょになりましょう」
しかし、
母は、
兄嫁たちと 嫁くらべをして、
ふたりを 別れさせようとします。
嫁くらべの日、
鉢かづきの鉢が、ぽろりと 落ちました。
すると、
うつくしい姫が、あらわれました。
また、鉢のなかには、
金銀の宝物、絹のいしょうなどが 入っています。
亡き母が、長谷の観音を信じてたおかげと、姫は涙します。
人々は 鉢かづきのうつくしさに 感嘆します。
琴を かなでること
歌を よむこと
姫は みごとに やりとげます。
鉢かづきの姫は、宰相と むすばれ、
しあわせな生活を 送ります。
時をへて、
長谷観音に参詣した 姫と宰相は、修行僧の父と 再会しました。
すべて、
観音さまのおかげと、感謝し、
みんな、しあわせに 暮らすことになりました。
「浦島太郎」「一寸法師」などをおさめた物語集『御伽草子』のなかのはなしです。長谷観音のご利益と愛のはなしのふたつが、結び合い、かさなりながら語られます。
母の死、継子いじめ、川に飛び込む鉢かづき、宰相との出会い、愛の誓い、鉢がとれる奇跡、うつくしい姫の出現、観音様のご利益、嫁くらべの試練、結婚、父との再会としあわせな結末、と起伏に富んだはなしです。
うつくしい言葉づかい、絵本のなかの和歌、また優雅な絵が、絵本の魅力を高めます。鉢が取れた瞬間は、シンデレラがガラスの靴をはくシーンとかさなります。
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※『鉢かづき』 あまんきみこ作、狩野冨貴子絵、ポプラ社 2004年 (2023/10/13)