人物と読者の関係、文と絵の役割について考えます。
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主人公はハンダ。
アフリカ・ケニアに住むルオ人の少女です。
彼女は、友達のアケヨにくだものを7つ持って行ってあげようと思います。
バナナ
クアバ
オレンジ
マンゴー
パイナップル
アボガド
パッションフルーツです。
くだもののかごを頭にのせて歩きだします。
アケヨはどれがいちばん好きなのかな、と考えながら、
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そのとちゅう、
くだものをねらう動物たちが次々に現れます。
はじめはサル。
サルは バナナを取りました。
(ハンダはそれを知りません)
ダチョウは クアバ
しまうまは オレンジ
ぞうは マンゴー
きりんは パイナップル
アンテロープは アボガド
オウムは パッションフルーツ
結局、頭にのせたくだものをみんな取られてしまいました。でも、ハンダはくだものが取られたことを知りません。絵本によく見られる「人物は知らないのに、読者は知っている」というパターンです。ハンダに教えてあげたい気持ちになります。
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ヤギが突進してきます。
そして、みかんの木にゴツン。
みかんが、かごにバラバラ落ちてきます。
かごは みかんで いっぱいです。ハンダはこのことに気がつきません。でも、読者は知っていますね。
「わぁ、ミカンだ! いちばんすきな くだものよ!」
アケヨは びっくりしました。
「えーっ、みかん?」
ハンダは、もっともっと、びっくりしました!
(でも、読者は知っています。)
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ハンダは、くだものをアケヨに持っていく途中、「アケヨはどのくだものが、いちばんすきかな?」「バナナかな?」「オレンジかしら?」「パッションフルーツかもね」・・・とアケヨの好きなくだものを想像しています。ハンダの心の中のことが書かれています。目に見えない心の中を描くことは文章の得意とするところです。
一方、絵は、動物たちたちがやって来て、くだものを取っていく場面を描いています。絵はまた、サルが来てバナナを取っていく場面の描写をするだけでなく、事態を説明し、「そして、それから~」と言うようにおはなしを語って(叙事)います。
アケヨの心の中は文章で語り、絵は場面の描写・説明し、叙事しています。文と絵は異なる役割をはたし相乗効果をあげています。
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文と絵の相乗効果と人物と読者の関係が、ドラマティックな読みの体験をうみだします。どうして気がつかないのかしらと、すこしヤキモキもします。また、つぎはどうなるのだろうという期待が高まります。自分が気づかないないうちに、物事がすっかり変わってしまうことは、私たちの身の回りでもありそうなことです。気をつけなければと思います。
ハンダのくだものが盗まれる場面のくりかえしは、読者の体験を強めるようにじっくりと絵を見ながら読むのがよいようです。
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※『 ハンダのびっくり プレゼント 』 アイリーン・ブラウン作・絵、福本友美子訳、光村教育図書 2006年 (2019/10/19)