ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ダム-この美しいすべてのものたちへ-』

ダムに沈む土地を訪ねる父と娘のはなしです。音楽とは何かを語っています。

       

      ・・・

明け方、

父は、むすめに言います。

   

 「ヴァイオリンを 持っておいで」。

     

朝もやのなか、ふたりは 谷にむかいます。

ここには、もうすぐ、ダムができます。

 

ここにいた

草木や花たち・・・

トリやケモノたち・・・

これからは、他の場所で 見ることになるだろうと

父は、想像します。

       

父は、想い出を 語ります。

ここで、

アーチーが 笛を吹き、

グレイスが 歌い、

みんなで  ダンスを した。

       

    

ふたりは、空き家に はいりました。

   

 「さあ、音楽だ。

  いなくなった ものたちのために

  そして、これから、やってくる ものたちのために

  ひいておくれ、キャスリン、

  ヴァイオリンを」

    

 「歌って、パパ、歌を

  おどって、パパ、ダンスを」

 

    

ふたりは、すべての家で 演奏し、歌います。

 

 その音楽を 

 トリたちが 聞き 

 ケモノたちが 聞き

 大地が 聞き 

 木々が 聞き

 精霊たちが 聞いた。

 

 

ダムは、完成した。

そして、

うつくしい湖が、あらわれた。

  

    

土地は、水に おおわれても、

音楽は 失われなかった。

   

 音楽が わきあがる

 ひびきつづける

 あらゆるところに 音楽はあふれている

   

鳥、波、葉っぱ、くさはらに。

あらゆるときに、音楽が流れる。

夢を 見ているときにも。

ダムで せきとめられても、

音楽は わたしたちの心に とどく。

     

         ・・・

イギリス、ノーサンバーランドの自然が、美しい絵で描かれています。「音楽とは何か」が、テーマになっているように思います。

     

父が、言います。

「いなくなったものたちのために、そして、これから、やってくるものたちのために。ひいておくれ、キャスリン、ヴァイオリンを」。音楽とは、自然と生命、精霊にささげるもの、人びとのたましいをしずめるもの、いやすもの、そしてこれからやってくるものごとを祝福するものです。

      

音楽は、ある意味、振動です。自然は、振動にみちています。自然の中、音楽は、あらゆるとき、あらゆるところに 流れている。わたちのなかにも 流れています。

    

      ・・・

※『ダム この美しいすべてのものたちへ』 デイヴィッド・アーモンド文、レーヴィ・ピンフォールド絵、久山太市訳、評論社 2018年  (2024/2/24)

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