先生が言いました。
「こころに うかんだことを かいてみましょう」
おとこのこが、画用紙を 真っ黒に塗りつぶしています。
「ちゃんとした えを かきなさい」。
それでも、おとこのこは、まっくろに しつづけた。
学校でも、
家でも、
朝になっても、
休みになっても やめません。
黒い紙が、増えていく。
みんな、心配になった。
まっくろけ、
まっくろくろすけ。
まっくろくろくろ
まっくろけ。
まっくろだけど やわらかい。
まっくろだけど こわくない。
不思議なことが おきた。
おとこのこは、画用紙を ならべはじめた。
おおきな
おおきな
なにかが
あらわれた。
くじらだ!
くじらが おとこのこに言った。
この せかいに
ぼくを つれてきてくれて
ありがとう。
・・・
周りのみんなは、おとこのこの見ていた世界がわかりませんでした。でも、おとこのこには、くじらがちゃんと見えていました。おとこのこの頭の中にだけあった世界が、みんなが見えるものになりました。子どもの想像力への賛歌です。
絵本『おおきなおいも』の世界と通じ合うものがあります。保育園の子どもたちのが、おおきなおおきなおいもを、のびのびと描いていく作品でした。
「うまい絵、へたな絵」という考え方にとらわれがちなわたしたち。子どもが描きたかったことを尊重しなさい、と教えられます。
・・・
※『まっくろ』 高崎卓馬作、黒井健絵 講談社 2021年 (2023/10/28)