ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ちからたろう』- ダイナミックな絵と音感的な文章

表紙の男の子が「ちからたろう」。百貫目の金ぼうを手にして旅修行にでます。

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とんと むかし。

貧しいじいさまと ばあさまは、

体じゅうの こんび(あか)で、

小さな人形を作り、「こんびたろう」と名づけた。

こんびたろうは、

「わしわし」とよく食べて、大きくなった。

しかし、「ほぎゃあ」とも言わず、寝たまんま。

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何年もすぎた、ある日のこと。

突然、

百かんめの かなぼう つくって けろ。」と

口をきき、

立ちあがり、

かなぼうを大根みたいに振りまわす。

「このちからが どんくらい 人のやくにたつものか、ためしてみてえ。」

 

(これから、ちからたろうの活躍がはじまります。

 こんびたろうは、ちからたろうと呼ばれます。)

はじめに出会ったのは、みどうたろう

ちからたろうは、みどうたろうを空高く吹き飛ばす。

そして、

みどうたろうがひっかかっていた松を、根っこぐるみ引っこ抜く。

みどうたろうは降参です。

ちからたろうと一緒に旅にでます。

 

次は、いしこたろう

ちからたろうは、いしこたろうを ぽいと ぶん投げる。

いしこたろうも、一緒になりました。

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三にんは、大きな町につくと、

町には、人っこ一人いない。

むすめが泣いています

三にんは、

ばけものが、毎年、町のむすめをさらっていくという話を聞いた。

「ええとも。えいとも。おらたち 三にんで、たいじしてやっから」。

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夜、

そいつがやってきた。

みどうたろうも、いしこたろうも歯が立たない。

げろんと飲み込まれてしまう。

ちからたろうも苦戦する。

しかし、相手を 下から ぐわんと蹴り上げると、

「んぎゅっ、むう」。

そいつは、みどうたろうといしこたろうを はきだして、消えてしまった。

後日談です。

そのあと、三にんは、村に住みつき、はたらいた。村の田んぼは、ぐんと実りがよくなった。ちからたろうは、助けた娘といっしょになり、じいさまとばあさまを迎え、あとのふたりも村の娘といっいょになり、暮らしたそうだ。さむらいどもだけは、すっかり 小そう なっておったと

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力強くダイナミックな田島征三の絵に惹かれます。こんびたろうが「やあああっと」背伸びする場面は圧巻です(上の絵)。

今江祥智さんはオノマトペをたっぷりと使って「ちからたろう」の成長と活躍を生きいきと描いています。 ちからたろうの成長は、彼の言動だけでなく、「こんびたろう」から「ちからたろう」と呼ばれる呼称の変化にも表現されています。

       

絵と文章が、張り合い、せめぎあい、あらがいあう関係が見えます。絵と文章で競い合い、張り合っている田島征三さんと今江祥智さんのことを想像すると、なんだか楽しくなります。黒澤明監督の「七人の侍」を連想しました。

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※『ちからたろう』今江祥智作、田島征三絵、ポプラ社、1967年

 

【追記】

絵本の中の直喩についてですが、農村的な世界を連想させる身近なものにたとえられています。「こんびが、まるで きのこみたいに、ぼろんぼろん とれた。」「かなぼうを、だいこんみたいに ふりまわして みせた。」「かなぼうを あめみたいに まげてしまった。」土のにおいがする絵と響きあって、これらの直喩もこの民話世界を形象しています。  (2021/2/2)

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