フォクシーは、キツネそっくりの小さな犬です。表紙のフォクシーはうたを歌っているようです。(これは伏線)。 ロシアの劇作家、チェーホフの「カシタンカ」(1887年)にヒントを得た絵本です。
・・・
ある日、
フォクシーは、
ご主人の男の子を見失い、迷子になってしまいました。
暗くなり、雨が降ってきました。
お腹はぺこぺこ。
ドアの前に、うずくまり、かなしくて、くたびれて、ねむってしまいました。
すると、
突然ドアが開きました。
ふとった男のひとが、フォクシーに躓いて転びそうになりました。
「やあ、きつねみたいなワンちゃん。どこからきたんだい?」
おじさんは、フォクシーを抱き上げ、うちに連れて帰り、ごはんをあげました。
家には、おんどりとねこがいました。
「さあ、おんがくのじかんだよ」
おじさんが、フルートを吹くと、
ねこは、ピアノを弾き、
おんどりは、「コケコッコーー!」。
フォクシーも一緒に「ウォウォウォウォーーン」と歌いだす。
おじさんは、おおきな声で言いました。
「いや、うれしいねえ、うたう犬とは! どうぶつさんにんぐみで、えんそうできる!」
・・・
「つぎは、げいをやってみよう」
おんどりは、死んだまね。
ねこは、宙返り。
フォクシーは、逆立ちの練習です。
・・・
「もう、ぶたいにでられるぞ」
おじさんは、フォクシーとおんどりとねこに派手な衣装を着せ、舞台に立たせました。
観客は拍手喝采。
歓声のなかから、
「フォクシー!」という声がきこえます。
なつかしい声、いちばん聞きたかった声でした。
フォクシーは、観客席にいた男の子の腕のなかに飛び込みました。
フォクシーが再び男の子の腕のなかに飛び込むまで、おはなしはずんずん進んでいきます。絵は、カラーページと2色刷りのページを交互に構成したものですが、フォクシーの行動とこころを語っています。フォクシーに寄り添って読んでいきましょう。この絵本は、チェーホフの短編「カシタンカ」にヒントを得たようですが、まったく異なる作品と言ってよいものです。 Foxie, The Singing Dog (1949) が原題です。
イングリ・ドーレア(1904-1980)、エドガー・ドーレア(1898-19806)夫妻による作品は、他に『オーラのたび』『トロールのばけものどり』(福音館書店)などがあります。
・・・
『まいごのフォクシー』イングリ&エドガー・ドーレア文・絵 うらべちえこ訳 岩波書店 2002年
【 追 記 】
・神西清訳のチェーホフ「カシタンカ」(1887年)はネット上で読むことができます。犬のカシタンカは元の飼い主と再会しますが、『まいごのフォクシー』のようなハッピーエンドではありません。がちょうの死もあり、暗く、人間のこころの奥底を見るような短編小説です。
・前見返しと後見返しに、12のコマ割りの絵がつけられています。
前見返しは、骨を見つけ地面に隠すフォクシー。後見返しは、家に帰ったフォクシーが骨のことを思い出し掘りかえす場面です。痩せたフォクシー(前)から、肉付きのよいフォクシー(後)が描かれています。