「のろのろ」のぼくと
「あわてんぼ」のわたしが、
「はっぴぃさん」に会いに行く、はなしです。
はっぴぃさんは 困ったことや願い事を 聞いてくれるのです。
はっぴぃさんは 山の上の大きな石の上に、ときどき 来るのだそうです。
「どうぞ ぼく(わたし)のねがいを
きいてください。はっぴぃさん!」
そして、ふたりは いっしょになり、山に 登りはじめます。
お互い、
相手が どこへ行くのか わかりません。
ぼくは のろのろ
わたしは どんどん
森を 抜けると、大きな石が 見えました。
「はっぴぃさんの おおきな いし!」
ふたりは、おおきな 石の はしとはしに すわりました。
ふたりは、
ぼくは どうしたら のろのろでは なくなるのか、
わたしは どうしたら あわてなくなるのか、
はっぴぃさんに 聞きたかったのです。
かたつむり、うさぎ、はと、りすが 出てきます。
ふたりは、はっぴぃさんだと思い、
願いごとを 言いましたが、すぐ いなくなりました。
ぼく(わたし)の 近くに あのこが います。
まっても まっても
はっぴぃさんは きませんでした。
ぼくと わたしは いっしょに すわりました。
「のろのろは なんでも ていねいだからだと おもうわ」(わたし)
「あわてるのは なんでも いっしょうけんめいだからだと おもうよ」(ぼく)
ふたりは ちいさく わらいました。
それから おおきく わらいました。
太陽を見ているうちに、
ふたりは はっぴぃさんに 会えたような気がしました。
ふたりは 太陽にむかって、たくさん ねがいを 言いました。
はっぴぃさん
はっぴぃさん
ぼくらの ねがいを きいてください。
はっぴぃさん
ぼくとわたしの交互視点で、話が展開します。ぼくは・・・。ぼくは・・・。わたしは・・・。わたしは・・・。「ぼく」「わたし」の呼称が、後半になると、「ぼくと あのこ」、「わたしと あのこ」に、そして「ふたり」となり、「ぼくらの ねがい」へと変わります。「ぼくらの ねがい」については書かれていませんので、読者にはわかりません。しかし、予想がつきます。
見返しに、えんぴつで描かれた戦車の絵があります。子どもが描いたような戦争の絵です。また、絵本の中にも、戦車が描かれ、戦禍を連想させる絵があります。
この絵本は、戦争と平和についての寓話ではないか、と思えてきました。表紙だけでなく、本文のなかにも、白い鳩がでてきます。ぼくは、白い鳩を「はっぴいさん」だと思って、願いごとを言います。
ふたりの願いは個人的なことでした。しかし、最後に、ふたりは太陽に向かって、たくさん願いごとを言います。その中身は読者の想像にまかされていますが、その願いのなかに、戦争のない平和な世界の願いが、きっと含まれていることでしょう。
・・・
※『はっぴぃさん』 荒井良二作・絵、偕成社 2003年 (2023/6/6)