文は瀬田貞二、絵は「原爆の図」の丸木位里です。「ねずみじょうど」でコンビを組ました。
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むかし、あるところ、
びんぼうなじいさんとばあさんが住んでいました。
じいさんは、柴刈りに。
ばあさんが、そばもちをつくります。
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じいさんが、そばもちを食べようとすると、
そばもちがころころと転げ落ち、小さな穴へ入ってしまいました。
「はあ、しかたねえなあ」とじいさん。
「けっこうな ごちそうを ありがとさん」と ねずみがこたえます。
「ちょっくら うちへ よって くだされや」
じいさんは、
ねずみの尻尾につかまり、
ねずみのお屋敷に案内され、
歌やおどりの歓待をうけました。
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ねずみは、
そばもちのお礼に、
つきたての餅と黄金を、ばあさんに持っていくようにと差し出しだしました。
「ねずみのじょうど ねこさえ いなけりゃ ねずみのほうねん しゃきしゃき」
黄金のしゃらしゃらと鳴る音を聞いた、隣のめくされじいさん。
今度は俺もと、そばもちを持って山へ出かけた。そばもちを落とし、穴に押しこむ。
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ねずみのしっぽにつかまり、「はやく いけ」とじいさんは急きたてる。
めくされじいさんも、座敷に通されるが、黄金がほしくて、
がまんできずに、
にぁーお
と猫の鳴きまねをした。
「ねこが きた!」
明かりが消え、あとは真っ暗。
めくされじいさんは、帰り道が分からず、とうとうモグラになったというおはなし。
とっぴん はらいの ぴい。
「ねずみのじょうど ねこさえ いなけりゃ・・・」のフレーズが形をかえて2回繰り返されます。それが、おはなしの音感的な要素になっています。後半の「めくされじいさん」の場面は少し不気味な感じです。「めくされ」とは人を罵って言う言葉ですが、作中のじいさんが使っているわけではありません。語り手がこの言葉を使っています。
人の心は見えないが、形(言動)に現れる。
語り手はふたりの言動を対比して、はっきりとした倫理観を示しました。 語り手は昔話を伝えてきた民衆の心を代弁する人物です。
丸木位里さんの絵は墨絵ですが、付け加えられた赤が印象的です。
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※『ねずみじょうど』 瀬田貞二再話、丸木位里絵、福音館書店 1971年 (2021/12/28)