1944年にコルデコット賞を受章した絵本です。
いまでも、アメリカで読み継がれているようです。
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むかし、
海辺の王国に、
レノア姫というお姫さまが、住んでいました。
ある日のこと、
レノア姫は病気になり、
「お月さまがほしい」と言いだします。
王さまは、レノア姫の願いをかなえようとして、家来たちに命じ知恵をしぼりさせます。
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はじめは、大臣。
「月は、無理です」
つぎは、魔法使い。
「月は、誰にもとれません」
さいごは、数学の大先生。
「月は、三十万マイルも遠いところにございます・・・月は、誰にもとれません」
道化師が言います。
「レノア姫さまが、月がどのくらい大きく、また、どのくらい遠いとお考えなのかを、うかがわなくてはなりませんね」
「それは、思ってもみなかったな」と王さま。
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「お月さまを、とってきてくれたの?] とお姫さま。
「お月さまをどのくらいの大きさだと、お考えですか」
「親指のつめより・・・小さいくらい」
「どのくらい遠いところにあるのでしょう?」
「窓の外の大きな木のてっぺんくらいのところ」
「それなら、とても簡単ですね。・・・木に登って、とってまいりましょう」と道化師がいいます。
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道化師は、
親指のつめより小さく、丸い「金の月」を金細工師に作らせました。
お姫さまは大喜び。
でも、月はまた出ます。どうしたらよいのでしょうか?
王さまは、大臣を呼び、魔法使いを呼び、数学の先生を呼びますが、
どの案も駄目。
道化師は言います。
レノア姫さまのほうが、月のことをよくご存知です。
「レノア姫さまに、うかがってまいりましょう」
道化師は、またお姫さまにたずねました。
「お月さまは・・・なぜまた、空に輝いているのでしょうか」
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「そんなこと、なんでもないわよ」
お姫さまは、
歯がぬけたら、新しい歯がはえるでしょ、
角をなくした一角獣だって、あたらしい角がはえるわ、
お花を切ったら、また別の花が咲くことでしょう、と言います。
「ははあ、なるほど」
「お月さまも同じことなの・・・なんでも、そういうことなんだとおもうの」
そう言うと、お姫さまは眠ってしまいました。
お月さまはレノア姫の手元にあるのに、なぜ空にもあるのでしようかと道化師が尋ねた時、彼女の答えはこうでした。 歯が抜けたとき、一角獣が角をなくしたとき、花を切った後にも、また歯がはえ、あたらしい角がはえ、べつの花が咲くでしょ。 「お月さまも、おなじことなの・・・きっとね、なんでも、そういうことなんだとおもうの」。子どもらしい答とも言えますが、何事もそれで終わりというわけではなく、ひとつの 終わりは あたらしいことの はじまりと言っているようにも思います。ユーモアのあるお姫さまの答えの中に 希望のひかりが見えます。
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※『たくさんのお月さま』ジェームズ・サーバー作、ルイス・スロボドキン絵、なかがわちひろ訳、徳間書店 1994年
【 追 記 】
すこし長いお話です。道化師に焦点をあて紹介しましたので端折りました。いろいろなアイディアを出す大臣、魔法使い、数学の大先生。王さまと彼らの会話もおもしろいところです。 また、ジェームズ・サーバー(1894-1961)は、ダニー・ケイの映画「虹を掴む男」(1947年)の原作者です。 (2019/4/14)