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1943年初版の科学の絵本の定番といわれています。その理由はいったいどこにあるのでしょうか? 少し長い紹介と考察です。
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地上でくらす 動物たち。
地面の下にすむ 動物たち。
地面の上と下でくらす 動物・うさぎ。
では、しょくぶつは?
しょくぶつは、地面の上と下の両方に伸びていきます。
ぽぷら じめんのうえはせいたかのっぽ。
じめんのしたは根が横にひろがっている。
なら じめんのうえは横のひろがり。
じめんのしたは根が下へ下へとのびていく。
にんじん じめんのうえは葉っぱ、じめんのしたは太い根。
とうもろこし じめんのうえは長く伸びた茎、
じめんのしたは短い根。
じゃがいも じめんのうえは葉と茎、じめんのしたは根と茎。
私たちはふくれた茎を食べます。
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地面の上には、空気と日光。
地面の下には、土。
土は、岩のかけらや腐植土です。
そのすき間に、空気と水があります。
日光に当たる しょくぶつは、
葉から、空気を
根から、鉱物のとけこんだ水をとりいれて栄養物をつくります。
にっこうに あたった しょくぶつ だけが くうきと つちから
えいようぶつを つくります。
動物は、にっこう、くうき、つちから、栄養をとることができません。
動物は、しょくぶつを食べ、しょくぶつを食べる動物を食べて、栄養をとります。だから、動物は、しょくぶつのおかげで生きているのです。
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「じめんのうえとじめんのした」、動物と植物が対比的に考察され表現されています。動物は「しょくぶつの おかげで いきているのです」と書かれていますから、作者は植物の方から見ているようです。作者のウェーバーさんは植物学者です。また、大島康行さんのあとがきが参考になります。
「この本は、幼い子どもが日常ごく身近に出会う動物や植物を例にとり、地面の上と目にみえない地面の下にわけて、いろいろな生活の姿をまず浮き彫りににしています。そして植物の地面の上と地面の下の部分が、それぞれの機能をもって密接につながりあい、さらに植物と動物、植物や動物と太陽、空気、土などのつながりあいを、生物にとって最も大切な栄養のとり方のちがいによって見事に示しています」(ゴシック体は引用者)
「じめんのうえとじめんのした」のつながりあい、動植物のつながりあい、生物と環境とのつながりあい(認識の内容)が、自然と理解できます。それがすんなりと理解できるのは、「じめんのうえ」と「じめんのした」、動物と植物を「比較する」という認識の方法が背景にあるからだと思います。言いかえれば、「比較」という認識の方法・表現の方法を学べるところが、この絵本のすばらしいところです。同じところ(類比)と違うところ(対比)をみる比較の見方(方法)は、幼児も使うことができる、最も基本的なものの見方です。
また、論理的な構成と説明もあります。
起承転結の文章構成、語りの順序の統一(じめんの上からじめんの下)一般から特殊への説明のしかたは、この絵本を科学絵本の典型たらしめているところのひとつだと思います。
『じめんのうえとじめんのした』がなぜ魅力的なのか、
「認識の内容」
「認識の方法」
「表現の方法」
の3つの観点から説明しました。
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※『じめんのうえとじめんのした』A・E・ウェーバー文・絵、藤枝澪子訳、福音館書店 1968年
【 すこし長い追記 】
この絵本の素晴らしさは本文で述べましたが、ひとつ疑問があります。にんじん、とうもろこし、じゃがいもの説明部分です。「にんじん」と「とうもろこし」は、葉と茎と根が対照的な植物です。
つぎは、「じゃがいも」です。
しかし、じゃがいもに対比的なものがありません。にんじん、とうもろこし、じゃがいもの3つの例がありますが、本来ならば4つの例がなければならないのではないでしょうか。「じゃがいも」に対比的な植物の例がなければならないのではないかと考えました。初版(1968年)はどうなっているのでしょうか? 初版はこうなっていました。
「たまねぎの じめんの うえに でているところは、こんなふうです。たべる ところは じめんの したにある まるい ところです。これは、あつくなった はが、よりあつまったものです。」(ゴシック体は引用者)
改訂版ではここが省略されています。
「たまねぎ」と「じゃがいも」が対比的な構造になっていたのです。どのような点で対比的なのか言いますと、たまねぎは「葉がよりあつまったもの」、じゃがいもは「ふくれた茎」という点で違っています。
地面の下にあるものは、根に限らないという点において、たまねぎとじゃがいものは、前にあげたぽぷら、なら、にんじん、とうもろこしとも対比になっています。じめんの下にあるのは「根」というのが常識でしょう。でも、「根」だけでなく、「葉」(たまねぎ)や「茎」(じゃがいも)もあるというのですから、読者は、エッ?と思います。これは新しい発見、新しい知識です。
論理的にもたいせつ「たまねぎ」の部分を、改訂版ではなぜ省略したのでしょうか。 (2020/1/18)