「舌切り雀」は、「桃太郎」「かちかち山」「猿蟹合戦」「花咲爺」と並ぶ 日本五代昔話のひとつです。
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むかし
1羽のすずめを大切に育ていた じいさがいました。
ある日、
すすめは、ばあさの洗濯のりをなめてしまいました。
「ろくでなしめ! こうしてくれるわい!」
ばあさは、はさみで すずめの舌をちょんぎってしまいました。
「なんと むごいことを したものよ」
じいさは あやまってくると言って、山に入りました。
すずめや すずめ
すずめのおやどは どこじゃいな ちゅんちゅん
じさは、途中、うしあらいどんに会いました。
「したきりすずめの おやどは しらんかい?」
「それをしりたくば、うしを あらうのを てつだえ」
じさまは、
びんがびんがと 光るまで 牛をあらいました。
つぎは、馬あらいどん。
じさまは、したきりすずめのお宿を 教えてもらうために、
びんがびんがと 光るまで 馬をあらいました。
すずめや すずめ
すずめのおやどは どこじゃいな ちゅんちゅん
そして、竹藪のなかの立派な家にたどりつきました。
「まあ、おじいさん、よく きてくださいました!」
「おら、あやまりにきたわいな」
「いえいえ あやまることは ありません。」
したきりすずめは、お座敷で
しろいごはんに さかなをつけた お膳で おじいさんをもてなしました。
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次の朝、
家に帰ろうとする じいさに向かって、
すずめは、おみやげに、
大きいつづらと ちいさいつづらのどちらでも お好きなものを お持ちください。家にかえるまで けっして ふたをあけてはいけませんと言います。
「おら としとってるから ちいさいほう もらってくわ」
家に帰り、つづらを開けると、
大ばん小ばん さんごに宝珠! 金銀ざいほうが ざっくざく。
宝がほしくなった ばあさ。
牛を こちょこちょと こすり、
馬を ごしょごしょつ こすっただけで、すずめのお宿へ出掛けます。
台所で、粟のごはんに 菜っ葉のたべものを出されます。はあさは、せかせかと土産はないかなと催促をします。そして、大きいつづらを選び 帰りました。帰る途中、中を見たくなったばあさがつづらをあけると、大きなへび、大きな 大きなひきがえる がはいだしてきます。
いのちからがら逃げ帰った ばあさ。
それからというもの、
はあさは あまり よくを はらなくなりましたとさ。
一般に昔話の語り手は、言動を通して人物を語ります。『したきりすずめ』の場合も、うしあらいどんの牛、うまあらいどんの馬をきちんと洗う行為の中に、じさまがどのような人物であるかが分かります。一方、ばさまは、牛や馬をちこっとこすっただけでした。そして、土産を催促し、帰る途中でつづらを開ける人物です。
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表現の方法に、叙事、描写、会話、説明がありますが、昔話の場合、描写よりも叙事を中心に物語られます。人物は、心理描写ではなく、外から見られる人物の言動によって表現されています。ものごとの出来事を表現する叙事には動きがあり記憶に残りやすいことですが、描写は昔話が受け継がれる中で風化してしまうように思われます。
また、人間の本質は、言葉を通してというよりも、行動の客観的な意味においてとらえる事ができる という考えがあるように思います。人物の行動を叙事することの多い民話の方法を成り立たせているのは、このような人間観です。
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※『 したきりすずめ 』 石井桃子 再話、赤羽末吉画 福音館書店 1982年 (2018/12/9)