大河ドラマとは違う源平の合戦を絵本でどうぞ。
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「げんじぬま」の夏の朝、
かえるの子どもたちが遊んでいる。
がまじいさんが、琵琶をべん べん べんとかきならす。
しわがれ声で歌いだす。
ぎおんの おてらの かねの おと
さらの き さらさら はなの いろ
かぜが ふくと はなが ちる
つよい かえるも ひっくりかえる
がまじいさんは、昔ばなしをする。
げんじ沼の主は げんじどの。とのさまがえるの侍だ。
ある夏に、一大事が起きた。
目玉の光るばけものが、あおがえるのおばさんに、刀傷をおわせた。
犯人は、平家ねこ。
「合戦だ! 合戦だ!」
「いくさだ! いくさだ!」
大将は「よしなかどの」
かえるの侍は一万びき。
けれども、平家ねこには歯がたたない。一万びきのかえるの負け戦。一万びきの退却だ。
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「よりともさま」は驚いた。
どうしていいのか分からない。
そこへ、「うしわかまる」の大作戦。
ねこ もともと りくのもの りくで かてる わけがない
かえるは みずで たたかえば およげぬ ねこに まけはせん
うしわかまるは、ねこの前に 飛びだし、蓮のうえ
ねこも おおきな蓮に 飛びのった
うしわかまるは、動かない。
しめた。
ねこが、飛びかかる
とたんに、蓮が沈みだす。ねこは沼の底。
それから 小さな蟹になり 平家がにと いうそうな。
かえるの平家物語はこれでおしまい、これっきり。
日野十成の文章は『平家物語』のリズム感を意識し創作したものです。文章は全部ひらがなですが、分かち書きになっていますので、読みやすいものです。また、それが読みのリズムを作ります。
絵にもいろいろな発見があります。バッタが馬になっています。クルミの兜、ばらの棘の鍬形、たんぽぽの槍、トクサの弓と松葉の矢、からたちの棘の短刀、人の顔のような蟹の甲羅(笑い)。かえるの服装や草花の絵、吹抜屋台の構図、右へ右へと動く絵の動線などに趣向があります。本物の『平家物語』とは違い無常観はありませんが、ユーモアがあり、 笑いがある絵本です。
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『かえるの平家ものがたり』 日野十成作、斎藤隆夫絵、福音館書店 2002年 (2022/4/27)