ふるはしかずおの絵本ブログ3

『おじいちゃんの手』-「おまえの その手は、なんでも やれる。やれるんだよ」

アメリカの人種差別を題材にした絵本です。

前半は、おじいちゃんの言葉、

後半は、孫のジョーゼフの言葉で構成されています。

      ・・・

スニーカーの紐がうまく結べないジョーゼフ(表紙の絵)に、おじいちゃんが語ります。

      

どうだ、ジョーゼフ、わしの手は

 港で働いていた時、

 誰よりもはやく、ロープを結ぶことができた 

      

どうだ、ジョーゼフ、わしの手は

 ピアノを軽やかに弾き、

 トランプをマジシャンのように使い。

 鮮やかに、変化球を投げた手だった。     

しかし、パン工場で働いていた時、

パン生地を

さわることも、

こねることも許されなかった。

おまえの 黒い手が ふれた パンなど 白人が たべるものか

     ・・・

わしは

仲間の手をもとめ、

プラカードをかかげ、

いのり、うたい、はっきり言った。

黒い手だ、白い手だと、くべつするのは もう、やめよう

     

いま。

どんないろの手も パン生地を こねて いいんだ。

     ・・・

おじいちゃん、見て

 靴ひもを結べなかった ぼく

 ピアノを弾けなかった ぼく

 トランプをきれなかった ぼく

 ヒットを打てなかった ぼく

 でも、

 いまは全部できる。

 パンだって焼けるよ。

     

おまえの その手は、なんでも やれる。やれるんだよ」

「手」に焦点をあて、 「黒い手と白い手」の中に人種差別の問題を浮き彫りにしました。また、おじいちゃんの言葉と孫のジョーゼフの言葉で構成したところに、過去と現在を重ねあわせる虚構の方法が見えます。また、「わし」(おじいちゃん)という言葉は、同じ苦難を体験した多くの「わし」を連想させます。

  

クーパーの絵は、油絵具で描いた絵を消しゴムで消すという手法です。セピア色の絵は、過去を思い起こさせますが、また人種差別の問題が遠い過去になるようにという作者の願いも感じます。差別とはなんでしょうか。どこからうまれるのでしょうか。肌の色からでしょうか。「色に非ず」と言う有吉佐和子の『非色』という作品もあります。また、人種差別をテーマにした『むこうがわのあのこ』『キング牧師の力づよいことば』『ローザ』もこのブログで紹介しています。

       ・・・

『おじいちゃんの手』 マーガレット・H・メイソン作、フロイド・クーパー絵、もりうちすみこ訳、光村教育図書 2011年

 

【 追 記 】

「手」に焦点をあてた詩と絵本を紹介します。詩は新美南吉の「手」です。その冒頭を引用します。

  

 お父さん 

 あなたの手は 

 鷄のあしのやうにみにくゝまがり 

 每日 石で叩かれたやうに 

 こちこちです ……

      ・・・

このあと、父は息子の手が柔らかく美しいことを喜ぶのです。しかし、詩には、わたしの「手」も、父と同じように何者かに叩かれているのことがうたわれています。「乾いた餅のやうに ひ割れた」父の手と 私の精神の「手」とが対比され、父の人生とふたりが生きている状況について考えさせます。

 

また、戦前・戦中・戦後をたくましく生きたハルの人生を、手に焦点をあて描いた『ハルばあちゃんの手』( 山中恒作、木下晋絵、福音館書店 )と言う絵本があります。ハルの人生と夫婦の愛をおだやかな文体とモノクロの鉛筆で描いています。このブログで紹介した絵本です。   (2021/7/9)

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