戦時下の、美しくも悲しいはなしです。
・・・
田舎の町に、
疎開した わたし。
わたしの家は、空襲で 焼けてしまいました。
あたらしい学校の 三年一組に
シンペイちゃんという いたずらっ子がいました。
はじめてあった、その日、
「おれ、べんきょう、だめなんだ。よろしくな
これ、やるよ」
緑色のものを 机に置きました。
「きゃーっ!」
カエルでした。
でも、
シンペイちゃんは、
意地悪でしたのでは ありませんでした。
歓迎するつもりで、「いいもの」(カエル)をくれたのでした。
シンペイちゃんは、
わたしを いろいろ かばってくれました。
ある時、
シンペイちゃんが、
握りこぶしを 突きだしました。
「いいもんやるよ」。
ためらっている「わたし」に、
シンペイちゃんは、
ぱっと こぶしを ひらきました。
ちいさな 鉛筆が ふたつ 手のひらに のっていました。
「まあ!」
「えんぴつのおひなさまだぞ」
「やるよ、おめいに」
「まあ、うれしい!」
「あした、三にんかんじょも つくってきて やるよ」
シンペイちゃんに 会ったのは、
それが 最後でした。
その夜、
シンペイちゃんは、
空襲で 焼け死んでしまったのです。
戦争は、終わりました。
わたしは、いまも それを大切にしています。
その えんぴつびなが、これよ。
わたしが、いまも 大事にしている
た・か・ら・も・の。
・・・
子どもの「わたし」の視点から描かれた戦争のはなしです。もちろん、それは「わたし」や「シンペイちゃん」と同じ年ごろの読者を意識してのことです。
『なぜ戦争はよくないか』の絵本のなかで、アリス・ウォーカーは言っています。「子育て中の母親たちのところにも 戦争は やってくるの」。もちろん、子どものところにもやってきます。空襲で亡くなったシンペイちゃん。戦争は、シンペイちゃんから、かれの未来を奪いました。シンペイちゃんと同じように、未来を奪われた多くの子どもが、いたことでしょう。
いまも、世界中で、無慈悲な無残な戦争が続いています。たくさんの子どもが亡くなっています。子どもの体と心を破壊しています。
・・・
※『えんぴつびな』 長崎源之助作、長谷川知子絵、金の星社 1984年 (2023/12/16)