ふるはしかずおの絵本ブログ3

『あかりの花 中国苗族民話』-歌う白いユリの美しさ

むかし、むかし、ある村に、トーリンという若者がすんでいました。山で、だんだん畑をつくって暮らしていました。
中国の少数民族苗族の民話です。

 

 

ある夏の日

トーリンの額からながれた汗のひとつが、岩のくぼみにおちました。

すると、そのくぼみから、ま白なユリの花がさきました。きれいな歌が聞こえてきます。

        

ある朝

ユリの花は、ふみたおされていました。

トーリンは、ユリの花をもちかえりました。

石うすに植えますと、ユリの花は、毎日、美しい声で歌います

 

十五夜の晩

灯心がゆらめき、

赤い花になり、

中から美しいむすめがあらわれました。

トーリンとむすめは働きました。

トーリンが 竹かご。

むすめは 刺繍。

市がたつと、トーリンはそれらを売りに出かけます。

      ・・・

家は、豊かになりました。

しかし、トーリンは、働かなくなりました。

むすめは、ひとりで 山へいき、

夜は、刺繍をつづけます。

 

満月の夜

灯心がきらめき、

赤い花がひらき、

中から金鶏鳥があらわれ、

鳥は、むすめを乗せ、月の世界へと舞い上がりました。

 

むすめが去ったあと、

刺繍をした2枚の布がのこされました。

ひとつは、ふたりが畑で働いている絵。

ひとつは、ふたりが夜なべをしている絵。

トーリンよ、おまえはなんてばかなんだ!

トーリンは、自分の愚かさに気づきました。

そして、鍬をかついで、畑を耕し始めました。昼も夜も働きました。

 

十五夜の晩

トーリンは、むすめを思い出し、涙がこぼれます。涙のひとつが、石うすにこぼれると、石うすのなかから、ユリの花がのび、歌を歌いはじめたのです。

灯心は、

赤い花になり、

その中にあの美しいむすめが微笑んでいます。

そののち、ふたりは、いつまでも なかよくくらしたということです。

トーリンの 汗のひとつがユリの花をさかせ、 涙のひとつがもう一度ユリの花がさかせました。 トーリンのこころと行動から生まれた汗と涙です。 豊かさとは何か、幸せとは何かという問いかけがあります。

 

まっ白なユリ、うたうユリ、満月、十五夜の月、灯心、赤い花、金鶏鳥、刺繍をした2枚の布、トーリンの汗と涙など印象深いものたちが、物語を支えています。白、赤、金など色鮮やかなイメージが浮かびます。また、むすめを描いた赤羽末吉の絵がすばらしいと思いました。

      ・・・

※『あかりの花 中国苗族民話』君島久子再話、赤羽末吉絵、福音館書店、2016年  

 

【 追 記 】

生誕110年・没後30年を記念して、赤羽末吉の展覧会が静岡市美術館で開催( 「赤羽末吉展」 2020.10.3~11.29)されています。 赤羽末吉の作品の全体像を見ることのできる展覧会です。表紙の原画も見ることができました。前回は赤羽末吉の『 ほしになった りゅうのきば 』 (君島久子再話)を紹介しました。  (2020/10/18)

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