ふるはしかずおの絵本ブログ3

『おとうさんのちず』-想像力をはぐくむ地図

作者のシュルヴィッツ(1935-2025)の 自伝的な絵本です。

  

戦争で

ぼくの 家族は、すべてを失い

とおい とおい 東の国まで やってきた

 

寝るところは、土をかためた 床のうえ

おもちゃも 本もない

食べものは たりなかった

 

   

ある日、

おとうさんは、パンを買いに 市場へ 出かけた

 

日暮れに ようやく帰ってきた おとうさん

「地図を かったぞ」

お父さんは、パンではなく、地図を 買ってきました

ぼくは 怒った

ひどい ゆるせない!

  

   

つぎの日

おとうさんは 壁に 地図をはった

暗い部屋に 色があふれた

  

ぼくは、眺めたり

書き写したり

地名で 詩を作って、呪文のように 唱えます

すると、心は とおく とんでいけるのだ

   

砂漠

はまべ

雪山

うつくしい お宮

果樹園

大都会へ

   

地図のおかげで、

ぼくは ひもじさを 忘れ

魔法のような 時間を すごした

 

 おとうさんは ただしかったのだ

        

    

地図を見つめているうちに、ぼくの心は遠い世界へ飛んでいきます。

ひもじさそのものがなくなったわけではありませんが、ひもじさだけが、ぼくの世界のすべてではなくなったのです。「パンではなく地図を買ってきた」という、おとうさんの一見不思議な行為が、ぼくにとって大切な贈り物だったことが、あとから分かりました。

      

最後には、「おとうさんは ただしかったのだ」と、ぼくは思います。前半の乾いた色調から、後半の豊かな色彩へ。絵の変化は、地図を手にしたぼくの世界の見え方が変わっていくことを感じさせます。

      

地図そのものは、もう残っていません。それでも、その地図を眺め、遠い世界へ旅をした経験は、作者の記憶のなかに残っていました。そして、記憶のなかに残っていた世界が、この絵本のなかでもう一度生まれたのです。一枚の地図が、少年の世界をひらきました。

         ・・・

※『おとうさんのちず』 ユリ・シュルヴィッツ作・絵、さくまゆみこ訳、あすなろ書房  2009年  (2026/10/1)

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