絵本、紙芝居、人形劇、ペープサート、パネルシアターなどを、子どもたちに向けて演じる場合、子どもの切実な体験をつくることがいちばんのねらいです。児童文化の世界を創造し、子どものゆたかな体験をつくるために3つの実践的なねらいについて簡単に解説します。
1.「えがく」こと
2.「かんじる」こと
3.「かんがえる」こと
これら3つのねらいは、 絵本、紙芝居、人形劇、ペープサート、パネルシアターなどを演じる、実践するうえで具体的な指針となります。
絵本やおはなしを読み聞かせる場合、子どもたちの頭のなかに人物とその世界を鮮やかに「えがく」ことがたいせつです。言葉からゆたかなイメージをつくり絵本の世界を体験(かんじる)することです。
言葉は音声のなかで生きてきます。
基本的なトーン、音声の高低、強弱、緩急、テンポ、リズムなどを通して人物とその世界を感じさせます。「間」もたいせつです。「最高の音楽は休止符にあり」という格言もあります。
また、「かんがえる」ねらいとは、言葉の意味、事件の意味、セリフの意味ということなどについて読者や見る者に考えさせるように読むこと、演じることです。
「えがく」、「かんじる」、「かんがえる」という3つのねらいは、もちろん、表裏一体のものであり、重なりあっているのは言うまでもないことです。しかし、場面によっては、その中のどれかが主な「ねらい」となることでしょう。ねらいによって読み方や演じ方も変わってきます。子どものこころになかに、いろどりゆたかに場面を描くように語る(演じる)のか、人物のこころやその場の雰囲気を感じさせるようにするのか、場面の意味や次におこることを考えさせるようにするのか、読み手(演じ手)の工夫が必要です。
また、絵本、紙芝居、人形劇の世界は、子どもがその世界に参加し創造することでうまれてくるものです。そのため、子どもが現実(日常)の世界から虚構(非日常)の世界へはいる境界をふみこえる必要でがあります。ここのところをうまく渡してやらなければなりません。
子どもの意識を絵本や紙芝居、人形劇の世界へ集中させる、興味、関心を強く持たせることがかんじんです。たとえば、日常性とかけはなれた話である場合、あらかじめおはなしの世界のおおまかなイメージを与えておくことのほうが、スムーズにおはなしや人形劇の世界にはいっていけるでしょう。
「心が今日知ったことを、頭が明日理解する」(ジェームズ・スティーブンス)。
児童文化の保育の実践は、ある意味、子どものこころにすてきな種をまくような仕事です。教育という営みは、即効的な効果のみをねらうものではありません。一般に児童文化があたえる経験は、子どもの考えが深まるにつれて一層その意味を深めてくれるという性質を持っています。
すぐれた絵本、人形劇は、人間とその人間が生きている状況をともに典型的なものとして描きだしています。絵本や劇の人物のなかに自分とつながってくるものを見いだすことができます。子どもは、絵本や人形劇のなかの人物の姿のなかに、自分の姿を発見し、また自分のなかにその人物の姿とこころを発見するのです。絵本や人形劇を通して、自己の再認識にいたります。
子どもがまだ見ていない世界へと導き、そしてもっともむずかしい人間のこころついての認識をふかめ、美の意識を培い、自己認識をふかめるように、みなさんひとりひとりが児童文化の世界を創造していきましょう。