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絵本は、一般に言語による形象と絵画による形象によって構成されたひとつの独立した芸術の形式です。絵本における言語形象と絵画形象は、『 おおきな かぶ 』『 てぶくろ 』などの絵本にみるように相互に関連し補足しあいながらイメージ豊かな世界を創造し、テーマ・思想を発展させています。(文字のない絵本の場合であっても、ことばは絵本の中に内包されていると言えます。絵と結びつきながら、読者の心の中にことばが生まれてきます。)
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絵本は、わたしたちにとって最も大切な認識である人間の心についてやさしく教えてくれます。体験・経験、また知識の少ない子どもたちは、作家の目を通して、耳をかりて、さまざまな真実を具体的なイメージで認識することができます。そして、人間、言葉、自然、社会、歴史等についての知識と認識を深めます。絵本を面白く楽しく体験するなかに、知育、徳育、美育という教育の三つの側面が表裏一体となって働いています。
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絵本を読むということは、子どもの体験の幅をひろげることにつながります。子どもたちは、絵本の世界を生きる人物とひとつになって、人物のよろこびをよろこびとし、悲しみを悲しみとする同化体験をしていきます。自分以外の他者の身になるということは、他者への思いやりの心を育ていくことになるでしょう。
また、人物を外から見たり、一歩身をひいて考えたり、さらには批判的な目をむけたりするような異化体験もしていきます。
おはなしのなかの人物の心と姿に、子どもたちの現在、過去、未来の姿が映しだされています。絵本をよむ体験は、自分自身の心と姿を内から、外から見ることにつながります。
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絵本の多くは、変化をともなう反復によって描かれています。くりかえしの表現方法は『 どろんこ ハリー 』『 スイミー 』のように人物像やその世界のイメージを強調します。また、おはなしへの参加を促し、子どもの読みの体験を強調します。そして、テーマや思想を浮き彫りにします。
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絵本は、ことばの教育、文芸教育の教材であるのはもちろんのことですが、 美術や音楽などの表現の教育、あるいは遊びに展開することができるような諸側面をあわせもった総合的、多角的な指導のための教材です。絵本を手がかりにして、さまざまな遊び、活動、学習へと導き、子どもの多面的な興味や関心を引き出すことが大切です。絵本は「保育の窓口」です。
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身をのりだすようして絵本を聴いている子どもたちの姿は、想像力と思考力を十分働かせていることのあらわれです。そして、絵本の感動を分かちあい、ひとつの同じ体験をすることで、子どもたちの心はひとつに結びつきます。
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私たちの身近に読みたい絵本があり、それを読んであげたい相手がいます。そして、読みたい私がいます。
私たちが心を込めて読みはじめるとき、絵本はいのちを吹きこまれ、いきた世界としてうまれてきます。ものとしての「絵本」が、いきた絵本にうまれ変わります。
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読み手の心をこめた読みが、子どもたちの感動を呼びます。
絵本を読みかたるということは、絵本の世界との対話、読み手と子どもの対話です。文章を読むのではなく、絵本の世界を子どもたちに語りかけるように心がけることがたいせつです。
絵本を読みかたる場の雰囲気、基本的なトーン、イントネーション、読みのテンポ、リズム、間、声の表情、読み手の姿勢等に気を配って、子どもたちと一緒に絵本の世界を生きいきと体験することです。
絵本を読んであげることは、子どもたちの心に種をまく仕事です。 (2018/11/25)