宮沢賢治の「 気のいい火山弾 」が
絵本になっています。
主人公は、
ベゴ石と 呼ばれる 火山弾です。
石ですので、動きません。
わたしの 好きな作品ですが、
絵本化は 無理だと 思っていました。
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ある 死火山の すそ野の かしわの木の かげに 、
「 ベゴ 」というあだ名の 大きな黒い石が
永いことじいっと 座っていました。
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ベゴ石は、
たまごの 両はじを、少し ひらたくのばしたような 形。
ななめに 二本の帯のようなものが、
からだを 巻いています。
そして、
一ぺんも 怒ったことがない 人物です。
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稜( かど )のある石は、
このベゴ石を からかって 遊ぶのです。
そして、バカにするのです。
かしわの木は、 自分のせいの 高さに
うぬぼれています。
おみなえしは、 冬の到来に、
きもを つぶしてしまいました。
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くうんくうんと 蚊が 飛んできます。
蚊は、
「 ベゴ石の ごときは、何の やくにも たたない 」
と 馬鹿にします。
ベコ石の上の 苔は、
この悪口を聞いて 馬鹿にします。
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べゴ黒助、ベゴ黒助、
黒助 どんどん、
千年たっても、 黒助 どんどん、
万年たっても、 黒助 どんどん
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それでも、べゴ石は 怒りません。
ある日、
背の高い りっぱな四人の人たちが 来ました。
「 あ、 あった、 あった。 すてきだ。 実に いゝ 標本だね。 火山弾の 典型だ。」
「 こんな立派な 火山弾は、 大英博物館に だってない ぜ。」
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ベゴ石は
「 東京帝国大学校 地質学教室 」 まで
運ばれることに なったのです。
からかわれ、バカにされても 怒らない
ベゴ石の こころには、 何があったのでしょうか。
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ベゴ石は、なにも しませんでした。
そこにあるだけです。
しかし、
ただ、そこに あるだけで、
みんなの役に たっていたのです。
かしわは、ベゴ石のかげで 成長することができました。
苔も、ベゴ石が じっとしていたからこそ、成長できたのです。
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すべてのものには、無駄がありません。
それぞれの役割を 持っています。
もちつ もたれつの 相関関係 にあるのです。
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また、
すべてのものは 変化 します。
そのような自然の理法を
あるがままに受け入れる ベゴ石でした。
法華経を ふかく信仰した 賢治です。
このような考えを ベゴ石の生き方に こめたのです。
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絵本化の 難しい作品に、
田中清代さんは、みごとな絵でこたえました。
ベゴ石の人物像には 苦労されたのではないかと 想像します。
火山の場面と
べゴ石の歌の画面は、とてもすてきです。
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※ 『 気のいい 火山弾 』 宮沢賢治作、 田中清代絵、 ミキハウス 2010年