落語の絵本です。
演目は「夢金」。
(「夢金」ですか。大人向けでもありますね。)
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しんしんと雪の降る夜。
隅田川の船宿をたずねる、わけありの侍(浪人)とむすめ。
「大桟橋まで 船を一そう たのみたい」
「あいにく、船頭が出はらっておりまして」
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二階で寝ていた欲の深い熊。
「百両ほしい」と寝言を言っています。
小遣いをねだる輩でと、主人が躊躇していると、
「おこせ」と侍(浪人)が命じます。
「くまこう おきゃくさまだ・・・こづかいを たくさんくださるそうだ!」
それを聞いて、熊は
「おやかた、すぐに船のしたくだ!」
降りしきる雪。
さむいの さむくねえの。
船をゆすって、小遣いを催促する熊。
しかし、侍は、小遣いをわたさず、金もうけの相談を持ちかけます。
「金もうけのそうだんがあるが、ひとつのるか?」
「えっ、金?」
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じつは、あのむすめ、
大金持ちの商人のむすめで、
店の金を盗んで、男のもとにいくところだと明かす侍。
200両はあるぞ。
むすめを殺せと命じます。
しかたなく、したがう熊。
でも、侍が泳げないと聞いて、一計を案じます。
「あそこの 中洲でやろう」
「よし、すぐに船をつけろ!」
中洲に侍をおろすと、
熊は、さおで岸をグイっ グイ。
むすめを乗せた船は中洲をはなれます。
「へーん、ばかやろう・・・おじょうさんを たすけるんだ!」
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むすめを助けたお礼に、大金もちの親は、
百両の金を熊にわたします。
「百両!」
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「おーい、くまこう、しずかにしねえか!」
二階で寝ている熊に主人が言いました。
つまり、今までのはなしは、夢の中の出来事だったという落ちです。
「 欲深き人の心と降る雪は積もるにつけて道を忘るる」( 狂歌 )
人間の欲望が生みだした夢世界です。おはなしがすべて夢であることが最後で分かりました。はじめから夢の中の出来事だったのです。しかし、リアリティがあります。
この世界を覆っているのは、雪が降り続く寒い冬の夜 です。その中に、滑稽味だけでなく、熊の凄みやヤクザな気質、人殺しを企む侍の不気味さが見られます。絵本の熊(上の絵)は、滑稽な人物として際立っていますが、侍と渡り合う凄味のある人物のようにも見えます。また、落語では、酒手を催促する熊蔵の強欲さ、金の分け前の話をする浪人と熊蔵のかけあいが聞き所です。人物描写や情景描写が難しい噺で、真打のネタだと思います。
「夢みるのも覚めているのも、もとより一如であり、実相である」 (道元禅師)。 (ここまで言っているかなあ)
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※『 夢 金 』 立川談春文、寺門孝之絵、ばば けんいち編、あかね書房 2017年
【 追記 】
本文中の 狂歌「欲深き人の心と降る雪は積もるにつけて道を忘るる」は、 6代目三遊亭圓生さんの「夢金」のマクラで聞きました。また、最後に「強欲は無欲に似たり」と言っていたように思います。 また、このような夢と現実がないまぜになった世界を描いた落語に「鼠穴」があります。わたしの好きな落語です。 (2019/4/4)