昼と夜の間のほんのわずかな時間、それが「すきまのじかん」です。
「あかりをともすほど、くらくもなく
かといって ほんをよんだり、ぬいものをするほど
あかるくはない じかん。」
「それは おもいでのせかい。
かなしいような うれしいような・・・
あったのか、なかったのか さえ わからないような はかないじかん。」
擬人化されたすきまのじかん。かれは竹馬に乗っています。
太陽の王さまとやみの女王さまの、どちらからも嫌われている すきまのじかん。
太陽の王さまとやみの女王さまは、いつも いがみあっています。
そこで、ふたりの間に そっと 忍びこむことにしました。
ほんの わずかな間に。
そのほかのときは、木のみきや 街灯のなかに かくれてすごします。
・・・
ある夕暮れ、かれは鳥たちの声をききました。
「むこうがわの じかんに・・・うつくしい おひめさまが すんでいるらしいよ」
むこがわとは?
うつくしい おひめさまとは?
・・・
すきまのじかんは、アオサギにすがたを変え、むこうがわのじかんへと旅だちます。
そこに見たのは、美しいよあけの おひめさま。
ユリのはなのように すがすがしく うつくしい。
すきまのじかんは、恋をして しまいました。
それいらい、
すきまのじかんは よあけのおひめさまを 見にいくようになったのです。バラのはなを はさんだちいさなほんを たいせつにかかえて。
・・・
すきまのじかんが 竹馬にのる姿には、かれの存在の不安定さが 暗示されています。「こころのなかは よるのやみに おおわれている」すきまのじかん。「なにもかいていない ちいさなほん」は、すきまのじかんの存在の希薄さとかさなります。ゆびぬきを頭にかぶる滑稽さ。また、マフラーをとめるながいピンには不安を感じます。
しかし、かれは恋をしました。ちいさな本にはさまれた、黄色いバラ。それは「あなたを恋します」(花言葉)の喩えかもしれません。すきまのじかんは、よあけのおひめさまと出会い、生まれ変わろうとしています。すきまのじかんの確かな時を、きっと、夜明けに見ることができるでしよう。比喩がちりばめられた、詩的で哲学的な絵本です。そして、アンネ・エルボーの美しい絵。絵の本です。
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※『 すきまの じかん 』 アンネ・エルボー作、木本 栄訳 ひくまの出版 2002年
【 追 記 】
マフラー、ピン、バラなどのことばをのぞいて、文章はひらがな表記です。漢字はひとつも使われていません。漢字には存在感があります。しかし、ひらがなには、やさしいイメージがあります。このあいまいで、はかない感じの人物をひらがなが彩っています。訳者もこの世界の創作者のひとりであることを実感します。 (2016/12/5)