写真の絵本です。
1滴のしずくが、いま落ちようとしている表紙の写真。「これはなみだ?」でしょうか。読者への問いかけがあり、仕掛けがあります。文章はほとんどありません。それを全部あげてみます。
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これは
なみだ?
しょっぱい、
にがい、
すっぱい、
からい、
つめたい、
なみだ?
いいえ、これは
おいしい、
あまい、
あたたかい、
はなの…
みつ。
・・・
「これは、なみだ?」
「しょっぱい、にがい、すっぱい、からい、つめたい、なみだ?」
「いいえ、これは おいしい、あまい、あたたかい、はなの…みつ。」
3つの文によって構成されています。対句的な表現です。謎解きの面白さがあり、読者をどんどん引っ張っていきます。
写真はどうでしょうか?
前半は、アリたちがどんどん集まってきます。文は「しょっぱい、にがい、すっぱい・・・」といっていますが、けっしてそのようなことはありません。アリたちにとって美味しい食べ物のようです。
でも、後半はアリがだんだん少なっていきます。なみだ(?)もなくなりました。「はなの…」のところには、アリはもう一匹もいません。そして、最期に種明かし。
それは花の蜜。
写真と文はどちらも、前半と後半が対比的です。そして、クライマックスへと導く構成が見事です。また、アリたちが、花の蜜に集まり、蜜がアリたちに食べられ、少なっていくところに人間のドラマを見ました。アリが人間に見えてきました。花の蜜にあつまるアリ、花の蜜がなくなるといなくなるアリ、人間の世界にも見られることです。
ひとつひとつの写真はシンプルですが、それらが構成されると深い意味がうまれます。
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※『 これは なみだ?』栗林慧写真、長新太文、福音館書店 2010年 (2019/10/26)