インドの昔話です。
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とおぼえ と 名のついた やまいぬが、
はげ山の洞穴に 住んでいました。
ある夜、
とおぼえ は、
食べものをあさりに、町へ行きました。
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しかし、
町の犬たちに怯え、染物屋へ逃げ込みます。
飛び込んだところは、
藍の おおがめ。
藍瓶から はいだして、
森へ逃げかえった とおぼえ。
からだが、あざやかな青色にかわっています。
森のけものたちは、その姿に恐れをなし逃げだします。
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これを見て、
とおぼえは、けものたちに呼びかけました。
わたしは、神々から送られた 王なのだと。
とおぼえは、けものたちを家来にしました。
ライオンを そうりだいじんに
とらを ねどこの かみに、
ひょうを さらまもりの つかさに、
ぞうを ごもんの すけに、
さるを かさかざしの こしょうに。
そして、やまいぬの一族を追いはらいました。
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しかし、ある日、
やまいぬの遠吠えが聞こえると、うれし涙があふれ、毛がさかだち、とおぼえは鼻面をあげて吠えました。
けものたちは、気がつきました。
「このあおい王さまは、やまいぬに すぎない!」
そして、とおぼえを追い払い、洞穴に追いやりました。
洞穴で、とおぼえは考えます。
なんだったのか ? あのくらしは ?
あのさかりのときは ? あのつきあいは ?
そんをしたのか ? とくをしたのか ?
いったい、わたしは なんだろう ?
わたしに ちからが あったのか ? --
このことは かたときも わすれずに
むねにてをおいて かんがえるが かんじん
とおぼえの本性があらわれ、まさしく、化けの皮が剥がれたというおはなしです。「ライオンの皮を被ったロバ」(An ass in a lion’s skin.)。でも、とおぼえは「いったい、わたしは なんだろう ?」と自問しています。「わたし」とは私です。とおぼえだけのことではなく、言うまでもありませんが、私たち自身の問いでもあります。「 汝自身を知れ 」。
マーシャ・ブラウンの版画は『 ちいさな ヒッポ 』と同様の多色刷り版画です。力強いタッチとけものたちの表情と動きがすばらしいと思います。ヒッポの場合は赤でしたが、この絵本は「とおぼえ」の青、藍の青が印象的です。
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※『あおいやまいぬ』 マーシャ・ブラウン作・絵、瀬田 貞二絵、 瑞雲舎、1999年 (2018/9/20)