金関寿夫(1918~1996)が訳した、エスキモーの人たちに伝わる詩です。
染色家・柚木沙弥郎(1922~)が絵をつけました。
詩を紹介します。
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ずっと、ずっと大昔
人と動物がともに この世にすんでいたとき
なりたいとおもえば 人が 動物になれたし
動物が 人にもなれた。
だから ときには 人だったり、ときには 動物だったり、
たがいに 区別はなかったのだ。
そして みんなが おなじことばを しゃべっていた。
そのとき ことばは、みな魔法のことばで、
人の頭は、ふしぎな力をもっていた。
ぐうぜん 口をついてでたことばが
ふしぎな結果をおこすことがあった。
ことばは きゅうに生命をもちだし
人が のぞんだことが ほんとにおこった――
したいことを、ただ 口にだしていえばよかった。
なぜ そんなことができたのか
だれにも 説明できなかった。
世界はただ、そういうふうになっていたのだ。
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言葉に魂があることを信じていた人たちの詩です。「口をついてでたことばがふしぎな結果」を起こす、言葉が生命を持っていた時代の力強い詩です。「人間とは何か」に答える太古の人々の世界観です。
柚木沙弥郎は、大胆な構図と鮮やかな色彩、古代の洞窟に描かれていたようなシンプルで力強い絵で、この世界観を描いています。型染のイラストです。詩と絵の競作です。傑作だと思いました。
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素晴らしい絵本ですが、幼児向けではありません。絵本の読者に年齢の上限はありませんが、どんなに良い絵本だとしても、年齢の下限があります。また、絵本が子どもの年齢が合っていたとしても、その絵本と出合わないこともあります。作家と子どもの個性と個性の出会いですから。蛇足ですが、子どもとの出会いがなかったとしても、それが絵本の評価を決めるものではありません。
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※『魔法のことば』金関寿夫訳、柚木沙弥郎絵、福音館書店 2000年
【 追 記 】
「エスキモー」という言葉は差別語であるという考えもありますが、差別語ではないという考え方もあるようです。この絵本の場合、表紙は「魔法のことば」ですが、扉では「魔法のことば エスキモーに伝わる詩」になっています。 (2020/4/13)