![](https://ehon.furuhashi-kazuo.com/wordpress/wp-content/uploads/2020/04/-2-e1586755519236.jpg)
金関寿夫(1918~1996)が訳した、エスキモーの人たちに伝わる詩です。
染色家・柚木沙弥郎(1922~)が絵をつけました。
詩を紹介します。
・・・
ずっと、ずっと大昔
人と動物がともに この世にすんでいたとき
なりたいとおもえば 人が 動物になれたし
動物が 人にもなれた。
だから ときには 人だったり、ときには 動物だったり、
たがいに 区別はなかったのだ。
![](https://ehon.furuhashi-kazuo.com/wordpress/wp-content/uploads/2020/04/202-e1586066444575.jpg)
そして みんなが おなじことばを しゃべっていた。
そのとき ことばは、みな魔法のことばで、
人の頭は、ふしぎな力をもっていた。
ぐうぜん 口をついてでたことばが
ふしぎな結果をおこすことがあった。
ことばは きゅうに生命をもちだし
人が のぞんだことが ほんとにおこった――
したいことを、ただ 口にだしていえばよかった。
なぜ そんなことができたのか
だれにも 説明できなかった。
世界はただ、そういうふうになっていたのだ。
・・・
![](https://ehon.furuhashi-kazuo.com/wordpress/wp-content/uploads/2020/04/1-e1586066581684.jpg)
言葉に魂があることを信じていた人たちの詩です。「口をついてでたことばがふしぎな結果」を起こす、言葉が生命を持っていた時代の力強い詩です。「人間とは何か」に答える太古の人々の世界観です。
柚木沙弥郎は、大胆な構図と鮮やかな色彩、古代の洞窟に描かれていたようなシンプルで力強い絵で、この世界観を描いています。型染のイラストです。詩と絵の競作です。傑作だと思いました。
・・・
素晴らしい絵本ですが、幼児向けではありません。絵本の読者に年齢の上限はありませんが、どんなに良い絵本だとしても、年齢の下限があります。また、絵本が子どもの年齢が合っていたとしても、その絵本と出合わないこともあります。作家と子どもの個性と個性の出会いですから。蛇足ですが、子どもとの出会いがなかったとしても、それが絵本の評価を決めるものではありません。
・・・
※『魔法のことば』金関寿夫訳、柚木沙弥郎絵、福音館書店 2000年
【 追 記 】
「エスキモー」という言葉は差別語であるという考えもありますが、差別語ではないという考え方もあるようです。この絵本の場合、表紙は「魔法のことば」ですが、扉では「魔法のことば エスキモーに伝わる詩」になっています。 (2020/4/13)