イスラエルからやって来た美しい切り絵の絵本です。おはなしは娘の夢と愛を語ります。
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白い紙の丘に、
白い紙からできた小さな家に、
白い紙からうまれた、むすめがひとり住んでいた。
「だれもいないなんて、どうしてかしら」。
ある朝、洗濯物をほしていると、ピューと風が吹き、まっさらな紙がとんできた。
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チョキ チョキ チョキ
むすめは、まっさらな紙から、おおきな気球を切りぬいた。
切りぬいた気球に乗り、空を飛ぶむすめ。
でも、そのことを話す相手はいない。
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チョキ チョキ チョキ
むすめは、帆かけぶねを切りぬいた。
むすめは帆かけぶねに乗り、白い波間をぬって水平線をめざす。
でも、そのことを話す相手はいない。
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チョキ チョキ チョキ
むすめは、ドレスを切りぬいた。
ちょっとおしゃれ。
でも、だれもパーティーにあらわれない。
つぎは、桃を切りぬいた。
むすめは、桃を食べ桃の種を窓の外にすてると・・・
つぎの朝、
おおきな紙の木がはえていた。
白い紙の葉っぱがいっぱいついている。
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チョキ チョキ チョキ
むすめは、いぬ、猫、ライオン、きりん、はりねずみ、小鳥の親子を切りぬいた。夕方、むすめは、ちいさな家も切りぬいた。自分の家とそっくりの、ちいさな家。
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ちいさな家は、となりの丘に運ばれた。
話し相手ができたみたい。
「こんにちは! はじめまして」
お隣さんも声をかける。
「やあ、よろしく」
おしゃべりの相手は恋人のようです.
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ふたりは、いっしょに散歩する。
ときどき、橋の真ん中で、ふたりはのんびりする。
これから切り抜くあれこれについて、おしゃべりする。
むすめには、白い雲が青く染まっていくように感じられる。
「まっさらな紙」から生まれたロマンチックな愛のおはなしです。人物たちの動き、むすめのドレス、草花、趣向を凝らした様々な意匠、風の表現が魅力的です。一枚の紙から、立体感のある世界とドラマがうまれました。何もなかった「まっさらな紙」から、ものやことが切り出され、切り出されたものやことから、新しいできごとが動き出していきます。 『紙のむすめ』の世界のように、私たちも毎日新しいものごとを切り出し生きているように思います。
作者のナオミ・シャピラは言っています。
「切り絵は、芸術的にも哲学的にも、とても奥深いものです。紙を切るという単純な作業から生まれる素朴な芸術ですが、何を切りぬき、何を残すかという選択を重ねて絵を完成させます。それは、人生と同じようなもの。何を選び取り、何を捨て去るか--失った部分がより鮮明に絵を際立たせるのです」
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※『 紙のむすめ 』 ナタリー・ベルハッセン文、ナオミ・シャピラ絵、もたいなつう訳、光村図書 2013年 (2022/1/4)