ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ノウサギの家にいるのはだれだ?』 - 読者は誰だか知っています

アフリカのケニア、マサイに つたわるはなしです。

       

ノウサギの家が、「つよくて ゆうかんな 戦士」に乗っ取られてしまいました。

ノウサギは、ジャッカル、ヒョウに助けをもとめます。「つよくて ゆうかんな 戦士」とは、青虫です。読者は知っています。でも、ノウサギたちは知りません。

      

      ・・・

むかし むかし、

野原を 散歩を していた

青虫が、

「これはいい」と

ノウサギの家に 入りました。

   

    

帰ってきた ノウサギは 

家の前に 足跡を 見つけました。

   

 「おいらの 家に いるのは だれだ?

   

   

青虫が、返事をします。

   

 「おれは、つよくて ゆうかんな 戦士だぞ。

  サイを はりたおすことだって、

  ゾウを ふみつぶすことだって、

  ちょちょいのちょいだ。

  なにしろ いちども まけたことが ないんだからな

  

   

ノウサギは、自分の家にはいる勇気が ありませんでした。

     

ノウサギは、

ジャッカルに、

家を 取り戻してくれるように たのみます。

     

でも、

ジャッカルは、

おれは、つよくて ゆうかんな 戦士だぞ・・・」と言われ、

ぶるぶる ふるえ、逃げていってしまいました。

 

 

ヒョウ、

サイ

ゾウも 

「つよくて ゆうかんな 戦士」に恐れをなして、

逃げていってしまいました。

   

    

カエルが 通りかかりました。

 

カエルは、青虫の言葉を聞くと、言い返しました。

   

 「おれさまは とんでもない ワルだそ。

  神さまが そんなふうに おつくりになったんだからな

   

 「ぼく・・・あの、ほんとは ただの 青虫なんだ

    

「ゆうかんな 戦士」が青虫だとわかると、

みんな 大笑い しました。

     

      ・・・

「人物は知らない、読者は知っている」という典型的な絵本です。「人物と読者の関係」から、この絵本の場合、ノウサギ、ジャッカル、ヒョウたちの言動に、おかしみが生まれます。事実を知ってる読者は、青虫の表情とどうぶつたちの表情の変化が、笑えます。

絵も、青虫を追い出そうとするどうぶつたちの前と後の表情を強調しています。

      

      ・・・

※『ノウサギの家にいるのはだれだ?』 さくまゆみこ再話、斎藤隆夫絵、玉川大学出版部 2022年

 

    

     

【 追 記 】

「人物と読者の関係」は、絵本でよく用いられる表現方法です。

     

 1.人物は知らない、読者も知らない

 2.人物は知らない、読者は知っている 『ロージーのおさんぽ』

 3.人物は知っている、読者は知らない 『はなをくんくん』

 4.人物は知っている、読者も知っている

   

     

これらが、ひとつの話の中に組み合わされている場合もあります。たとえば『マーシャとくま』です。

     

マーシャは、森の中で道に迷い、くまの家に入ってしまいます。マーシャは、家へ帰る道がわかりません(1)。でも、いい考えが浮かびました(3)。くまに、おじいさんとおばあさんにおまんじゅうを届けさせるアイディアです。マーシャは、おまんじゅうを入れたつづらのなかに隠れます(4)。途中、くまは、つづらの中のまんじゅうを食べようとします(2)。マーシャが見つかる!  でも、マーシャは機転を利かせて、難を逃れました。そして、無事に帰ります。

   

仕掛けられた「人物と読者の関係」が、読者との間にドラマを生じさせます

  

ところで、再読する場合ですが、読者はすべてを知っています。すべてを知ってしまった読者は、お話を楽しめないのでしょうか。初読のスリル、サスペンス感はすくなくなりますが、くまを外側から見て、くまの言動に対するおかしさが増します。また、マーシャの知恵に感心します。

                           (2025/1/29)

    

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