
文章は、直木賞作家の森絵都さんです。
ようたくんは、「ぼくだけのこと」をたくさん見つけまた。
・・・
3人兄弟のまん中の ようたくん。
ぼくだけ、右のほっぺに えくぼがある。
笑うとできるし、怒るとなくなる えくぼ。
ぼくだけ、いつも蚊にさされる。
仲良しが6人いる。逆立ちあるきができるのは、ぼくだけ。
24人のクラスメイトがいる。芸能人のサインをもっていないのは、ぼくだけ。
・・・
学校には 452人の生徒がいる。
ぼくだけ、運動会の閉会式で 貧血をおこして、たおれた。
ぼくだけ、隣の家の犬の チャッピーにほえられない。
世界の中で、こんなぼくは ひとりだけ。

でも、地球のどこかに、ぼくと同じ子がいるかもしれない。
インド人のヨーター?
えくぼがあって、蚊に刺され、逆立ちあるきができて、芸能人のサインを持っていなくて、貧血でたおれ、犬に吠えられない。
そして、インドでひとりだけ カレーが嫌いな ヨーター?
ざんねん!
ぼくはカレーが大好き。
・・・
あさ、
太陽が昇り
目をあけ、
ご飯を食べて、
歯をみがき、
いろいろなことをして、
夕ごはんをたべて、
歯をみがいて ねる。
そのあいだに、きょうも みつけよう。
ぼくだけの こと。
えくぼがあって、蚊に刺され、逆立ちあるきができて、芸能人のサインを持っていなくて、貧血でたおれ、チャッピーに吠えられないぼく。とても個性的です。文章と絵にユーモアがあります。
「ぼくだけのこと」には、周りのみんなの証言があります。
えくぼのことを証言したのはお兄ちゃん、蚊に刺されることはお母さんの証言、ようたの逆立ちあるきは最高と言う女の子(上の絵)、芸能人のサインを持っていないのはなぜかを教えてくれる男の子、貧血でたおれたの自分の長話のせいだと思っている校長先生、チャッピーに吠えられないのはお菓子をあげるからと言うお隣のおばさん証言です。
お兄ちゃん、女の子、校長先生たちの証言は、吹き出しの形で描かれています。いろいろな人物から見られているぼく。ぼくの姿を明らかにする多元的な視点であり表現です。言いかえれば、ぼくは多様な人間関係の中で生きています。
・・・
※『 ぼくだけのこと 』 森 絵都作、スギヤマ カナヨ絵、偕成社 2013年 (2019/10/30)