「はなす」とは何か。
シンプルな言葉のなかに作者の竹内敏晴(演出家、1925年-2009年)さんの考えが詰まっているように思いました。
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「あとでね」
「こうえんでね」
わたしは、よしくんと初めてはなしました。
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帰り道、たんぽぽが咲いています。
「きれい」
たんぽぽに触っていると
たんぽぽとおはなししているみたい。
「あしたもくるからね・・・ずっと さいててね」
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よしくんとおはなしできた わたし。
たんぽぽとおはなしできた わたし。
よしくんに、そのことをはなそうとする わたし。
約束の公園へ行ってみると、よしくんは喧嘩をしています。
でも、わたしが来たので
知らない子は、どこかに行ってしまいました。
「あっ あっ あっ あっ」とよしくん。
「あっ あっ あっ あいつったら、ぼくが さかあがりできないって わらうんだ」
「いいじゃない。そんなの かんけいないよ」
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泣いているよしくんに、たんぽぽのことを話しづらい わたし。
でも、わたしは話しました。
たんぽぽが咲いていたことを。
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あした、よりみちしない?
いいよ。
よしくんは、もう泣いていません。
でも、
わたしは、たんぼぼとおはなししたことは言えませんでした。
でも、明日になれば、よしくんもわたしの気持ちがわかるだろうと思うのです。
読むことや書くことは、一人でもできますが、「はなす」ことや「聞く」ことは、相手がいなければできません。
たんぽぽの美しさに気づき、たんぽぽとおはなしする わたし。よしくんを励ます わたし。見たこと、感じたこと、感動したことをよしくんに伝えたいと思う わたしがいます。
「はなす」とは相手に言葉を届けること。関係を築くことです。そして、はなしかけようとする「わたし」が生まれます。わたしのはなす言葉が、こころを届けあたらしい関係と未来をひらいています。
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※『 はなす 』 竹内敏晴文、長谷川集平絵と文 復刊ドットコム 2015年 (2018/8/24)