むかし、
たいそう貧乏な
じいさんと ばあさんが おりました。
じいさんが
山へ しばかりに 行くと、
でんかしょ でんかしょ
かわいい声が きこえてきます。
藪のなかを のいてみると、
ひょろひょろの ねずみと
でっぷり ふとった ねずみが
すもうを とっていました。
やせねずみは 自分の家の ねずみ。
ふとったねずみは 長者どんとこの ねずみ。
やせねずみは 負けてばかりです。
じいさんは、
餅でも ついて ちからを つけさせたいと思いました。
ばあさんと いっしよに 餅を つき、
戸棚に いれておきました。
あくる日、
じいさんが 山へ 柴刈りに 行くと、
でんかしょ でんかしょ
掛け声が きこえます。
「ほう、やっとる やっとる」
きょうは、やせねずみが ふんばって
でんかしょ でんかしょ
そのうち
「やっ」と 長者どんの ねずみを 投げとばしました。
やせねずみが、
餅のひみつを はなすと、
長者どんの ねずみも 餅を 食べたくなりました。
じいさんと ばあさんは、
二ひきぶんの 餅をつき、戸棚に いれ、
赤いふんどしも ふたすじ そろえてやりました。
あくる日の あさ。
ばあさんが 戸棚を のぞくと
餅もふんどしも なくなって、
かわりに おかねが どっさり 入っていました。
じいさんとばあさんが、山に行くと
ねずみどもは、
赤い ふんどしをしめて、
でんかしょ でんかしょ
すもうを とっていたと。
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「でんかしょ、でんかしょ」という掛け声が、とてもリズミカルです。
赤羽末吉さんの絵は、人物中心に描いています。無駄なところがありません。
また、じいさんとばあさんが、長者どんのねずみがもってくるお金で、くらしも楽になりました。「いつまでも しあわせに くらしました」というラストです。情けは人の為ならず。他者を思いやるじいさまとばあさまの功徳です。昔話の「ねずみのすもう」は、ある意味、法話かもしれません。
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※『ねずみのすもう』 神沢利子作、赤羽末吉絵、偕成社 1983年