ジプシーの昔話です。
前半と後半の3回のくりかえし。2部3段の構造です。昔話の構造をしっかりと持った話です。単純化して言いますと、出発、助力者との出会い 、課題と解決、結婚です。
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[ プロローグ- 動機・ 出発 ]
ジプシーの若者が、鞭をふるう強欲な主人にがまんできなくなり、旅にでることにしました。
[ 前 半 - 助力者との出会い ]
旅の途中、ぎんいろのさかなが、川岸の砂に打ち上げられています。
若者は、
さかなを食べようとしますが、「ころさないでください。川へかえしてください」とさかなが口を開きました。
さかなは、
銀のうろこを1枚とって若者に渡します。「こまったときは、もやしてください。すぐに たすけにいきますから」
若者は、
さかなを助けてあげました。
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つぎに、ワシの子を、
そのつぎは、
アリの王さまを助けました。
ワシの子は、つばさを1枚、
アリの王さまは、あたまの毛を一本あげます。「こまったときは、もやしてください。すぐに たすけにいきますから」
美しい王女のいる国につくと、おふれを見つけます。「王女から隠れて、見つからなかったものが、王女の夫になれる」。しかし、王女は、なんでも見える鏡を持っています。どこに隠れようと、みんな見つかってしまうのです。どこに隠れたらよいのでしょうか。
[ 後 半 - 課題の解決 ]
若者は、
ぎんいろのさかなの口にとびこみ、川の底ふかくもぐりました。王女は、鏡の中に、若者の帽子のかざり玉が魚の口から出ているのを見つけました。
つぎは、
ワシ の背中にのり、空高く飛びます。でも、帽子のかざり玉がワシのつばさから出ているのを見つけられてしまいます。
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最後に、
若者は、アリの王様に頼みました。
アリの王さまは、アリたちに命じて、トンネルを掘らせました。王女の椅子の下まで。若者はお城の王女の椅子の下までいきます。
王女は、鏡をのぞきました。
すると、
王女のこころを映しだしています。その中に、あの若者がいるではありませんか。「ジプシーは、わたしの心のなかに いるというのね」
王女の心は、ドキドキしてきました。心配にもなりました。そのとき、ジプシーは「ここだ!」と言って、椅子の下からとびたし、王女にキスをしました。
[ エピローグ - 結婚 ]
ふたりは、りっぱな結婚式をあげます。さかなも、ワシも、アリの王さまも、もちろん呼ばれました。けれども、鞭ばかりくれた主人は、よその国に追いだされました。
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若者がお城の王女の椅子の下まで来たとき、鏡が 「王女のこころを映しだしまた」という文がありました。「ジプシーは、わたしの心のなかに いるというね」と王女は言います。王女は彼のことを本当は「好き」だったのです。だから、どこにも見つからない彼のことが心配になり、鏡を投げすて、こなごなにしてしまいました。鏡を捨て、自分のこころに従い行動する王女の姿には、象徴的な意味があるようです。
絵はスズキコージさんです。個性的な彼の絵は一目で分かります。今回もアリの王さまの絵はとてもユニークで思わず笑ってしまいました(上の絵)。
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※『なんでも見える鏡―ジプシーの昔話』 フィツォフスキ再話、スズキコージ画、内田莉沙子訳、福音館書店 1989年 (2021/11/25)