奴隷制度があった200年ほど前のアメリカ。壷をつくって暮らしていた奴隷、デイヴについての絵本です。
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粘土のかたまりが、
つぎつぎとデイヴの仕事場に運ばれてくる。
デイヴは、川の水を粘土にそそぐ。
木のへらで混ぜる。
ちょうどいい固さになるまで。
そして、足でろくろを回す。ぐるぐる ぐるぐる。お祭りの回転木馬みたいだ。
デイヴの手は、壺の形をうみだしていく。帽子からウサギをとりだす手品のように。あかぎれの指で形をつくってゆく。
ぐるぐる ぐるぐる
ろくろが まわると、
こまどりの胸のように壺がふくらむ。
ろくろを止め、
粘土のひもをつくる。
つぼの上にひもを重ね、ろくろをまわす。
両手でならす。
てっぺんの縁をつくると、さあ、これで出来上がり。
デイヴの頭の中にあった形が姿をあらわした。
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デイヴは、木の灰と砂をまぜて、釉薬をつくる。
壺が固まる前に、デイヴは文字を書く。自分が生きていたことを伝えるために。
私の家族はどこなのか?
すべての人─そして、国に、友情を 1857年8月16日
壺に文字を書くことは、デイヴにとってただの署名ではありませんでした。自分が生きていた証です。壺に書かれた彼の詩が巻末の解説(「デイヴの人生」)に載せられています。そのひとつ。「十字架を背負ってこのつぼをつくったのは私 / 悔い改めない者は滅びるだろう=」。
画家のブライアン・コリアーについては、『キング牧師の力づよいことば』(2002年)や『ローザ』(2006年)でも紹介しています。コラージュの画法が使われていますが、コリアーにとってコラージュは、画法にとどまらない意味があります。コラージュでは「たがいに無関係のたくさんのちがったものは、張り合わされ一体となり、見る者の心に強くうったえる」のです。
多くの違ったものを構成するコラージュの絵は、さまざまな民族がアメリカに暮らしていることの暗喩です。また、さまざまな人種・民族の協同と平和という願いの象徴です。
また、独特な比喩でデイヴが壺をつくる過程を表現しています。分かりやすいだけでなく、ゆたかなイメージで彼の仕事を彩ります。2010年のコルデコット賞オナー賞受賞作品。
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※『つぼつくりのデイヴ』 レイバン・キャリック・ヒル文 ブライアン・コリアー絵 さくまゆみこ訳 光村教育図書 2012年 (2022/5/1)