「七夕女房」の むかしばなしです。
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むかしの むかし あるところに いぬかいさんという 若者が おった。
ある日
松の枝に きれいな 羽衣を 見つけた。
いぬかいさんは、
羽衣を さがしていた 天女に 言った。
「あんたを だいじに するけん、
よめさんに なってくだはり」
天女は、たなばたさんと いうた。
子どもが うまれ、
五つと 三つに なったとき、
いぬかいさんは、
羽衣を 子どもたちに 見せて、
かあさんには おしえたら いかんと 口止めした。
でも、
子どもたちは・・・
かあさんが はごろもは よい ほーら
うらん くらの おくに よい ほーら
たなばたさんは、
羽衣を 見つけ
ふたりの子どもを だいて
瓜の種 三つぶと 置手紙を のこして、
天の くにに もどっていった。
「わたしと 子どもたちに あいとう なりんさったら
瓜の種を まいて、わらじを 千ぞく いけて
天まで のぼっておいでなされ」
いぬかいさんは、
瓜の種を まき、
おおきく 育った うりの木に いぬと いっしょに のぼり はじめた。
途中 大瓜が なっていたので、
ひとつ かかえ、
天の くにに ついた。
天の くにで、
大瓜を たてに 切ったものだから、
瓜の なかから、
どぶどふ どふっと 水が あふれだし、
おおきな 川と なった。
いぬかいさんと いぬは こっちぎし
たなばたさんと 子どもたちは あっちぎし
引きはなされて しまった。
ながい 年月が たち、
みんな 星に なったんじゃと。
いぬかいぼし(牽牛星)と たなばたぼし(織女星)に。
ふたつの星は、一ねんに 一どだけ
七月七日の 晩に 天の川を わたるんじゃそうな。
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九州以南につたわる「七夕女房」、中国伝来の星座伝説などのモチーフをいかし、創作された「たなばたむかし」です。
天女の羽衣、木のように育つ瓜の種、大瓜を縦に切った災いなど多くのモチーフが、民話調の語りの中にいかされています。「たなばたさん」への思いを打ち明ける「いぬかいさん」の場面、「ジャックと豆の木」のように伸びる瓜など、ストーリー性がゆたかで、起伏に富んたはなしです。
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※『たなばたむかし』 大川悦生作、石倉欣二絵、ポプラ社 1979年 (2024/6/24)