ふるはしかずおの絵本ブログ3

『マリーのお人形』- アンティークドールの価値

アンティークドール幸せは、どこにあったのでしょうか?

     

        

パリの街に

朝から晩まで ため息ばかり ついている

ひとりの 人形が すんでいました

とても 貴重アンティークドールでした

 

くる日もくる日も

人形は 大通りを 見つめていました

   

 「いっしょに遊べる、おんなのこさえ いてくれたらなあ

   

    

郵便屋さんの娘の マリー

学校の 行き帰りに

ウィンドウに 鼻を くっつけて

人形に 手を 振るのでした

でも、マリーは 人形を買うだけの お金がありませんでした

   

     

ある日

人形は

感じのいい、年とったご婦人に かわれました

ご婦人は 

ピアノの上の 金色の 骨董の置き時計と 

骨董の ろうそく立ての間に 人形を おきました

  

 「なんてぴったりなんでしょう。すてきだわ

      

しかし、人形は 

シャム猫に 落とされ

ダックスフントの 真上に 落ちました

いぬは おこって 人形をくわえ

街に とびだしました

    

    

人形を くわえた いぬは 

街で フォックステリアと 大喧嘩を はじめました

    

パリッ、ビリビリ

赤いドレスは さけ

羽根かざりのついた 帽子は、みぞに ころがりました

     

     

そのとき だれが 通りかかったと思いますか?

そうです

マリーです

     

マリーは、人形のほこりを はらい

キスをして 家に つれてかえりました

マリーは お人形に 

下着、木綿のドレス、ズボンを ぬってあげました

   

マリーは 学校からかえると、毎日 お人形に いいました

 

 「さあ、おちゃにしましょう

     

   

  お人形は、もうお姫さまのようではありません。

  それはたしかです。

  でも、もし 誰にもかわいがってもらえないとしたら

  貴重なアンティークドールになんて

  いったい 誰がなりたがるでしょうか

      

              ・・・

骨董品店のショーウィンドウに飾られていたアンティークドール。貴重な人形でしたが、孤独でした。人形は小さな子といっしょに遊びたかったのです。品のいい婦人に買われますが、そこに、子どもはいませんでした。貴重な人形として、ほかの骨董品といっしょに、ピアノの上に飾られました。

           

ルイーズ・ファティオの最後の文(もし誰にもかわいがってもらえないとしたら・・・)に、作品の思想があるように思います。

    

もの(人形)の価値は、古いこと自体にあるのではなく、誰かにみとめられ、いかされて、うまれるものである、という考えです。すなわち、価値は、そのものに備わっているというより、対象(価値をもつもの)と主観(感受する者)の関係のなかに現れるという考え方で、いわゆる関係論的価値観です。アンティークドールは、骨董品としての価値ではなく、マリーの遊び相手としての本来の価値を実現しました。それは人形がのぞんでいたことです。

    

            ・・・

※『マリーのお人形』 ルイーズ・ファティオ文、ロジャー・デュボアザン絵、江國香織訳、BL出版  2007年  (2025/11/8)

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