ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 金のさかな 』- 目に見えない心・欲望の深さを見る

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ロシアの文豪・プーシキン(1799-1837)の童話です。
     ・・・
ある日、
おじいさんが、

金のさかなを釣りあげました。
「おじいさん、わたしを海へかえして! そのかわり・・・なんでも おのぞみのものをさしあげます。」
おじいさんは、

金のさかなを海にかえしてやりました。
「たっしゃでな、金のさかなよ!」
     ・・・
おばあさんは、

おじいさんを叱りつけます。
せんたくおけでも もらってくりゃいいのに。」
     ・・・
おじいさんは、
青い海へ行き、金のさかなに せんたくおけを願います。
 (海は、かすかに波立っています。)
「しんぱいは いりませんよ。さあ、うちへおかえりなさい。あたらしいおけが ありますよ。」

おばあさんは、こんどは
おひゃくしょうの家がほしい、と言いだします。
おじいさんは、金のさかなに 家を願います。
 ( 青い海はすこし濁っています。)
「しんぱいは いりませんよ。さあ、うちへおかえりなさい。・・・おひゃくしょうの家をたててあげましょう。」
     ・・・
おばあさんは言います。
「みぶんのたかい、きぞくになりたいんだ」。
 ( 青い海は荒れています。)
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貴族になったあとは、
女王 になることを望み、
 ( 青い海は黒ずんでいます。)
女王のつぎは、
海の君主を望みます。
「金のさかなを けらいにして、つかいばしりをさせたいんだ。」
おばあさんの欲望は、どんどんエスカレート。
 ( 海はどす黒くにごり、嵐が吹き荒れています。)
      ・・・
金のさかなは、もうなにも言いません。

おじいさんが、おばあさんのもとに帰ってみると、土小屋とこわれたせんたくおけがあるだけでした。

せんたくおけ、家、貴族、女王そして海の君主へとおばあさんの欲望はどんどんエスカレートしていきました。ものに対する欲求から、人を支配しようとする欲望へと変化していきます。

 

おばあさんの欲望がエスカレートするたびに、海は荒れて黒ずみ、どす黒くにごり、嵐が吹き荒れていきます。海の形象は、おばあさんのこころを象徴しています。それは、子どもにも分かりやすい欲望のすがたです。おばあさんの言動と海のイメージを通して、目には見えない人間のこころが見えてきます。

「元の木阿弥」

「大欲は無欲に似たり」

      ・・・

※『 金のさかな 』アレキサンドル・プーシキン作、ワレーリー・ワシーリエフ絵、松谷さやか訳 偕成社  2003年

  

【 追 記 】
フランスの文学史家・ポール・アザールは、よい本とは何かについてこう答えています。「 特にわたしが愛する本はというと、それは、あらゆる認識のうちで最もむずかしいが、また最も必要な認識、つまり人間の心情についての認識を与える本である」( 『 本・子ども・大人 』矢崎源九郎、横山 正矢訳、 紀伊國屋書店 )  (2020/4/18)

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