
題名(『 おじいちゃんが おばけになったわけ 』)が仕掛けになっています。読者は、どうしてなんだろうと考えます。
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エリックの大好きなじいじが、突然死んでしまいました。
「じいじは、天国へいくのよ」とママ。
「土になるんだ」とパパ。
エリックは、どちらの考えも、ぴんときません。
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その夜、
じいじが、エリックの部屋にやって来ました。
( おじいちゃんの幽霊? )
じいじは、
タンスの上にすわって、
暗闇をぼんやりと見つめています。
「なにしているの? しんだんじゃなかったの?」
エリックは、じいじがお化けなったと思います。
「壁を通り抜けてみて」。
じいじは 壁をとおりぬけ、また壁をとおりぬけて もどってきます。
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じいじが、朝まで部屋にいたことを パパとママに話すと、
「学校、やすんだほうがいいな」と言うパパとママ。
その夜、またやってきた じいじ。
『おばけの本』によると
「この世にわすれものがあると、人はおばけになる」と書いてあります。
じいじは、なにか忘れ物をしたのでしょうか。
じいじの忘れ物を さがして歩く ふたり。
子どもの頃の思い出?
奥さんとの思い出?
めがね、
いれ歯、
歯ブラシ・・・
過去のことはたくさん思い出せるのに、何を忘れたのかが分かりません。
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ある夜、
じいじは言います。
「おもいだしてごらん。おまえとわしでしたことを・・・」
エリックは思い出します。じいじとの楽しい思い出を。
遊園地でのったジェットコースター、サッカーをしてチューリップをめちゃくちゃにしたこと、映画のとちゅうで寝てしまったこと、海でつくった砂のお城、ふたりで釣りをしたこと、じいじのタバコのにおい・・・
「やっと、おもいだしたんだ。」
(じいじは、なにを思い出したのでしょうか?)
「わしは、おまえに、さよならをいうのを、わすれていたんだ」
じいじは、そう言うと
壁を通って外に出て、手をふりました。
そして、闇のなかに静かに消えてなくなりました。
「さてと」
エリックはベッドにもぐりこみます。
「ぼく、あしたは、学校へいくよ」
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『おじいちゃんがおばけになったわけ』は、ユーモアをもって、愛する人との別れ(死)を描きました。自分を愛してくれた人の死、私が愛した人の死を乗り越えるのは、難しい課題です。エリックの心の課題が克服されていく姿が、ユーモアをもって表現されています。「ぼく、あしたは、学校へいくよ」という言葉に、じいじの死をのりこえたエリックの姿が見えます。じいじの記憶は、エリックの中に残ります。彼は、これから先、じいじとの楽しい思い出を決して忘れないことでしょう。
また、タイトルは、テーマを表現するだけでなく、読者への仕掛けでもあります。
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※『おじいちゃんがおばけになったわけ』キム・フォップス・オーカソン作、エヴァ・エリクソン絵 菱木晃子訳 あすなろ書房 2005年
【 追 記 】
愛する人物との別れを描いたふたつの絵本です。
・『ずっーと ずっと だいすきだよ』 ハンス・ウィリアム 絵・文、久山太市訳、評論社 1988年
・『わすれられない おくりもの』 スーザン・バーレイ 作・絵 、小川仁央訳、評論社 1986年
犬のエルフィーの記憶はぼくの心に、アナグマの記憶は仲間の動物たちの心のなかで生きつづけました。記憶すること、忘れないことの大切さがわかります。 (2020/5/3Ⅰ)