アメリカへ渡った祖父の話を、孫のぼくが語ります。
「ぼく」とは、作者のアレン・セイ自身(1939年-)です。
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戦前、
ぼくのおじいさんは、アメリカへ渡りました。
太平洋におどろき、アメリカ大陸を汽車や蒸気船でめぐり、何日もあるいた 若者(ぼくのおじいさん)。巨大な彫刻のような岩に目をみはり、はてしない畑をみわたし、大都会に胸がさわぎました。
「黒人に白人、東洋人にインデイアン、みんなと握手をした」若者(ぼくのおじいさん)。
そして、カルフォルニアへ。
つよい光、シェラ山脈、さみしい海岸がすきだった おじいさん。
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若者は、日本にもどり、幼なじみと結婚し、ふたたび、カルフォルニアへ。
娘がうまれ、
娘を育てあげたころ、
家族と日本にもどった おじいさん。
家族は、都会にでて、娘は恋をし結婚をしました。
そして、まもなくうまれた ぼく。
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おじいさんは、カルフォルニアの山や川をわすれられず、アメリカへ戻ろうとします。しかし、戦争が起こりました・・・
戦後、
焼け野原となった都会をはなれ、生まれ故郷に帰った おじいさん。ふたたび、カルフォルニアに戻ることはありませんでした。
若者になった ぼく。
ぼくは、カルフォルニアに行くことにしました。
カルフォルニアが好きになり、ここで娘がうまれます。
ぼくは、おじいさんの人生とかさねて思うのです。
不思議なことに、いっぽうにもどると、もういっぽうが恋しい。
アルバムに貼られた写真のような絵が並んでいます。ぼくの語りは、ぼくのルーツを探す旅でもあります。この自伝的な絵本は、日本生まれの日系アメリカ人作家・アレン・セイにとって、アイデンティティを確認するものであったことでしょう。「いっぽうにもどると、もういっぽうが恋しい」というぼくの心情は、移民をした人をはじめ、ふたつの地で育った人、また過去と現在にいきるすべての人の心情です。
ぼくの中におじいさんがいます。おじいさんの中にぼくがいます。「おじいさん」と「ぼく」、「過去」と「現在」をかさねる虚構の方法で、祖父へのふかい愛、家族の絆を表現しています。1994年のコルデコット賞受賞作品です。
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※『おじいさんの旅』 アレン・セイ作・絵 ほるぷ出版 2002年 (2016/11/23)