インドの寓話集「ジャータカ物語」をもとにしたおはなしです。
ジャータカ物語とは、前世のブッダについての物語です。
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川のほとりの
マンゴーの木に、
サルたちが 住みついていました。
そばの川に、
おなかがぺこぺこの わにたちが、泳いだり、日向ぼっこをしています。
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ある日、
若いわにが、
年をとったわにに言いました。
「おれは さるをつかまえて、たべてやりたいと おもってるんだ!」
「あいつらは おまえよりも すばしっこいんだよ」
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【さるの エピソード1】
若いわには、さるを捕まえる方法を考えました。
「おさるさん! 果物がいっぱいある、あの島へいかないか。」
「ぼくは おげないんだよ!」
「おれの せなかに のっていけばよい。」
わには、にやりと笑いました。
「きみのせなかは、とてもよい のりものだね」
「そうおもうかい?」
わには、突然 水の中へ沈んでいきました。
そして、わには言います。
「おれは おまえを食べるのだ」
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ぼくを食べたいなら、いちばんおいしい心臓をもってきたのにと、さるは答えます。
「しんぞうだって?」
「そいつを ぼくは 木の枝に かけてきてしまったのさ」
では、心臓を持って来いと わにが命じます。
さるは、
島につくと、木によじ登り、わにに向かって、
「とれるものなら とってみろ!」
さるは、おなかをかかえて笑いました。
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【さるの エピソード2】
わには、
さるが 岩から岩へとびうつり、果物の島にわたっていくのを じっと見ていました。「今夜、つかまえてやる」
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夕方、
わには、岩の上によこたわって 待ち伏せをします。
「あれ? いわのかたちが おかしいぞ」
さるは、岩にむかって声をかけます。
「もしもし いわさん!」
返事がありません。
「いわさん! どうして きょうは へんじをしてくれないの?」
わには考えました。
岩は、あのさるとしゃべっていに違いないと。
「なんだい さるくん どうしたんだい?」
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さるは笑って、(笑)
「やあ、きみでしたか わにさん」
さるは言います。
「今度は ぼくを つかまえたようだね・・・口を大きくあけてごらん。きみの口に飛び込むよ」
さるは知っていました。
わにが口を大きく開けるとき、目を閉じるのを。
そして、
わにが、口を開けると、
さるは、口の中ではなく、
わにの頭の上へ飛び乗り、自分の木によじのぼりました。
それからというもの、
わには、いちども さるを捕まえることが できませんでした。
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「きみには、やっぱり すきを みせないことにするよ」。
知恵と機知に富むさるは、前世のブッダのたとえです。賢いさると目つきの鋭いわに、ふたりの知恵比べです。さるの賢さに感心します。そして痛快なおはなしです。 ユーモアもありました。でも、さるに危機が迫る場面は読んでいてスリルを感じます。
さるとわにの違いを際立たせて読むとおもしろいと思います。
絵本にはありませんが、わたしの教訓です。
【 教 訓 】
わにのいる世界で暮らすさるには知恵と用心深さが大切だ。
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※『さるとわに』 ポール・ガルドン作 きたむらよりはる訳 ほるぷ出版 2004年 (2021/3/27)