スリランカの小さな村のひとたちは、まだ、傘を見たことがありませんでした。
バナナやヤムいものはっぱを 傘のかわりに していました。
そんな時代の おはなしです。
・・・
キリ・ママというおじさんは、
町で、生まれて初めて 傘を見ました。
みどり、
あか、
きいろ、
あおのかさ。
みんな、日差しを避けるために さしていました。
「なんてきれいで べんりなものだろう」
キリ・ママは、かさを買って帰りました。
子どものように、かさをぐるぐるまわしました。
「みんな、きっと びっくりするに ちがいない」。
村に帰ると、
キリ・ママは、
コーヒー店の物陰に 傘を隠して、主人と話していました。
帰ろうとすると・・・
「たいへんだ。かさが ないぞ!」
キリ・ママは、がっかりしました。
もう一度、かさを 買いに行きました。
こんども、コーヒー店でおしゃべりするうちに なくなってしまいました。
それから、かさを買うたびに、かさがなくなってしまうのです。
かさどろぼうって、だれでしょうか?
おじさんは 、ある作戦を 考えました。
かさの中に、紙切れを いれておいたのです。
やっぱり、かさは消えましたが・・・
でも・・・
キリ・ママは、紙切れのあとを たどっていきました。
そして、古い大きな木まで来ました。キリ・ママは、木の上を見ました。
すると、どうでしょう。
かさが、きれいに並んで ぶらさがっていたのです。
キリ・ママは、かさを 持ち帰りました。
でも、一本だけ残しました。どろぼうにやることにしたのです。
キリ・ママは、かさの店をひらきました。村は、かさで 花が咲いたようになりました。
でも、かさどろぼうって、誰だったのでしょうか?
おじさんは、一本だけ残しておいた、かさを見にいきました。
見ると、かさが開いています。
座り込んでいるものがいます。
かさの中に座っていたのは・・・
いたずらなこざる、でした。
・・・
傘を村びとに届けたいと思っているキリ・ママ 。
「なんてきれいで べんりなものだろう」 と言っています。
かさが盗まれても、動じることがありません。
傘を見慣れたわたしたちは、 キリ・ママのように傘を見ることは、ないことでしょう。「もの」に対する、新鮮な感覚があります。見慣れた「もの」や「こと」に対しても、キリ・ママのような感覚を持ちたいものだと思いました。スリランカのおおらかな話です。
・・・
※『かさどろぼう』 シビル・ウェッタシンハ、猪熊洋子訳、徳間書店 2007年 (2022/12/16)