『 てぶくろ 』は、絵本の絵のあり方について教えてくれる傑作です。
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『 てぶくろ 』 のおはなしは、
おじいさんが落とした てぶくろを使って、
くいしんぼねずみ、
ぴょんぴょんがえる、
はやあしうさぎ、
おしゃれぎつね、
はいいろおおかみ、
きばもちいのしし、
のっそりぐまが、生活をともにするというものです。
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絵本の絵は、てぶくろが、だんだんと家らしくなっていく様子を描いています。
床下をあげたり、
扉をつけたり、
バルコニーを築いたり、
窓をつけたり、
そして煙突からはけむりまで
出しています。
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けむりが出ているということは、
部屋(てぶくろ) の中では
ストーブが焚かれているのです。
「 てぶくろ 」 の家が
だんだん あたたかく 綺麗になっていく様子、
また 生活が築きあげられていく様子が、
絵によって表現されています。
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また、人物たちは、民族性豊かな衣装を着るなど個性的で、性格や階層がきちんと表現されています。
旅人らしい はやあしうさぎ、
おしゃれなきつね、
つぎはぎの服を着ている はいいろおおかみ、
パイプをくゆらし立派なコートを着た きばもちいのしし、
庶民を代表する ような のっそりぐま。
これらの人物は「 てぶくろ 」の家に出会う前は、おそらくばらばらな人生を歩んでいたことでしょう。でも、いま、てぶくろの家をつくり、いっしょに暮らし始めるのです。「てぶくろ」は、ひとつの社会を象徴しているようです。みんなが力を合わせて築いたてぶくろの家は、あるべき社会を表現しているようにも見えます。
最後は、おじいさんがてぶくろを見つけ、動物たちのつくった「てぶくろ」の家はなくなってしまいました。みんなは、またバラバラになりました。しかし、みんなで「てぶくろ」の家(社会)をつくった記憶までなくなったわけではありません。いつか、みんなでもう一度「てぶくろ」の家(社会)をつくることでしょう。
ところで、絵本の絵は、文章を補足するだけでなく、発展させなければならないと、ラチョフは語っていました。『 てぶくろ 』は、そのみごとな例です
「主人公たちの風貌や彼らが行動する状況を視覚的具体性をもって再生することは、けっして原文からの逸脱を意味しない。補足と発展-これこそ画家の主要な課題であり、それは画家の前にきわめて大きな創造の可能性をひきだすものだ」
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※『 てぶくろ 』 ウクライナ民話、 ラチョフ絵、 うちだりさこ訳、 福音館書店 1965年 (2013/8/6)