今日、あなたは空を見上げましたか。
空は遠かったですか、近かったですか。
長田弘さんの詩「最初の質問」は、こうして はじまります。
印象的な詩句を あげてみます。
「ありがとう」という言葉を、今日、あなたは口にしましたか。
「うつくしい」と、
あなたがためらわずに言えるものは何ですか。
あなたにとって
「わたしたち」というのは、誰ですか。
何歳のときのじぶんが好きですか。
上手に歳をとることができるとおもいますか。
これだけはしないと、心に決めていることがありますか。
あなたにとって、
あるいはあなたの知らない人びと、
あなたを知らない人びとにとって、
幸福って何だとおもいますか。
時代は言葉をないがしろにしている ―
あなたは言葉を信じていますか。
「あなた」にむけた「最初の質問」の数々です。
「あなた」とは誰でしょうか。語り手はだれに向かって、「あなた」と言っているのでしょうか。「何歳のときのじぶんが好きですか。/ 上手に歳をとることができるとおもいますか」の言葉から、想定される「あなた」は若い人のように思われますが、年齢に関係なく、未来を拓こうとしているすべての「あなた」です。
質問には、言葉で考え、言葉で表現しなければならないでしょう。
言葉を信じ、自分の言葉をもってほしいという、語り手の、作者の願いがあります。
いせひでこさんの絵にも、印象的な絵があります。
どっしりした木のそばを、鞄を引きずりながら、泣いているおとこのこがいます(上の絵)。別のページには、雪の積もったおなじ大木を見あげる男性がいます。「おとこのこ」と「男性」の関係を想像し、ふたつの絵の間の長い時間を考えます。いせひでこさんの絵は、絵の中にドラマを創造しています。絵は、詩の世界をひろげています。
タンポポとシロツメクサなどの草花の中に 眠っている 子ども。
「人生の材料は何だとおもいますか」という詩句に、添えられた使いかけの 絵の具。
うつくしい水彩画です。「意味」を含んだイメージの数々です。
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※『最初の質問』 長田弘詩、いせひでこ絵、講談社 2013年 (2024/8/23)