イタリア・サルデーニャ島の小さな村 オラーニ。
1950年代の生活と風俗が、「わたし」の思い出とともに 語られます。
オラーニ村は、お父さんの ふるさとです。
アメリカにいる わたしは、毎年のように 訪れます。
船に乗って。
じりじり照りつける 太陽。
何時間も走り、村に着く。
プラムとブドウを 摘む 中庭で、いとこたちと話し合う。
「ねえ、アメリカのこと、きかせて」
「でも、ここのほうが ずっと楽しいわよ」
みんなは、うそばっかりという顔で 笑う。
石の道。
光いっぱいの 広場。
山の岩から、つめたく、すきとおった水がでる。
オラーニ村では いつでも 何かが 起きている。
すぐそこ、手がとどく場所で。
アイスクリームを 食べたり、
粉屋さんで 小麦を ひいてもらったり、
仕立屋の仕事を 見たりする。
みんなで食べる 食事も、
チーズやはちみつは、近所の誰かが 作ってくれたもの。
ハエも いっぱい!
「死んだ人を見たことがある? え、ないの?」
なくなった おじいさんを見る わたし。
お祭りの日の、馬のレース。
狭い通りを すごいスピードで 駆けぬける。
夜遅くに、パンを石窯で やいている。
夜明けが、近づくころ、
いいにおいが ひろがる。
運がいいと、結婚式がある。
お祝いは 三日三晩つづき、
一日の終わりには みんなで 踊る。
山の上の 聖フランチェスコ教会。
わたしは、そこから、オラーニ村を見下ろす。
あそこには、にぎやかな音や いきいきとした くらしがある。
おぼえたいことも、感じたいことも、知りたいことも、
ぜんぶ あそこにある。
ああ、あのオラーニ村が だいすき!
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ニューヨークに住む少女が、父のふるさと、サルディーニャ島のオラーニ村を訪れました。サルディーニャの明るい日差しとジリジリとした暑さを感じます。
作者・二ヴォラ(1947~)さんの少女時代の、1950年代のオラーニ村です。オラーニ村の人々の暮らしが、郷愁を持って、うつくしく、瑞々しい文章で語られています。ここでは、「人と人の関係はとても近く、あたたかく、濃密です」(作者のことば)。それは、ニューヨークにはないものでした。
ふるさとを愛情をもって、このように語る作者の人柄を考えました。そして、ふるさとへの彼女の深い思いをうらやましく感じました。
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※『世界のまんなかの島 ~わたしのオラーニ~』 クレア・A・二ヴォラ作、伊東晶子訳、ぎじとら出版 2015年 (2023/6/16)