ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ドーナツなんかいらないよ』- 「なんだこれは」の絵本!?

奇妙なできごとの世界、奇怪な人物たちが登場する絵本? です。

  

     

なんびゃく、なんぜんの ドーナツが ほしい サム

サムは 三輪車に のって

ドーナツを さがしに おおきな街に いった。

ドーナツを 荷車に いっぱいのせた おじさんに であった。

     

 「わたしのなまえは ビックファードさん・・・

  わたしは ドーナツをあつめているんだが、

  てつだってみないか?」

  

     

街に いくと 

玄関口の 階段に すわっている

かなしい おばあさんが さけんだ。

   

 「ドーナツなんか いらないよ!

  そうさ。あいがあれば、ドーナツなんか いらないよ!」

   

   

ビックファードさんは

街で

荷車いっぱいに プレッツェルを つんだ

プレッツェル・アニーに 出会った。

    

 ふたりは ひとめで 恋に落ちた

     

    

ビックファードさんは

ドーナツのことなど わすれて しまい、

ドーナツいっぱいの 荷車が のこされた。

           

    

「こんなにたくさんの ドーナツをどうしよう」と、自問しながら

サムが あるいていくと・・・

  

野牛の角が ささり、

穴があいた コーヒーの タンクから、

コーヒーが 流れだした。

地下室に ねていた おばあさんは コーヒーで 溺れかかる

    

     

サムは

いそいで ドーナツを ぜんぶ 地下室に いれた。

ドーナツが すっかり コーヒーを吸って

おばあさんの いのちを すくった。

 

 「どうやって おかえしをしたら いいものやら

      

サムは いった。

   

 「ドーナツなんか いらないよ。

  ぼくには あいがあるから

 

サムは、三輪車に とびのって 家にかえった。

 

            ・・・

ちゅうい ちゅうどくになるほんです」という警告が、表紙カバーにありました。たしかに、中毒性がある絵です。よく見ると、街の人たちや看板が変。意味不明な感じです。アセイさんのコーヒーの看板は、「コーヒーに見えるし、コーヒーみたいな味がするから、コーヒーだってわかるよ」とすこし変。人物の表情も 服装も していることも、みんな、不可解で異様です。動物も奇妙で滑稽なすがたです。リンカーンらしき人物まで登場しています(上の絵)。

        

シュールな世界です。

過剰な書き込みが、都会の猥雑なすがたを表現しています。

      

でも、「ドーナツなんかいらないよ。ぼくにはあいがあるから」とサムが言っているように、このおかしな世界は「愛」のことを語っているようです。

   

        ・・・

※『ドーナツなんかいらないよ』マーク・アラン・スタマティー作、とくながりさ訳、国書刊行会  2014年  (2025/3/24)

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