ふるはしかずおの絵本ブログ3

『トムテ』- 家族と動物を見守り続ける

スウェーデンの小人・トムテのおはなし

トムテは、何百年も生きて、彼が住む家の人びとの幸せをまもります。

 

    

しんしんと 冷える 真冬

森に囲まれた 農場では すべてが ねむりについている。

目を さましているのは、トムテ ただひとり。

農場野の 夜番を している。

 

    

トムテは ふと つぶやいた。

   

 「いや、なんとも むずかしい もんだいだ

  わしの てに おえそうもない

      

    

トムテは

家畜の小屋を まわった。

めうしは 夏の夢を 見ていた。

馬も 夢を 見ていた。

こひつじが、親ひつじに よりそって ねむっていた。

おんどりも たかい 止まり木てせ やすんでいた。

    

いぬの カーロは、しっぽを ふった。

トムテと カーロは なかよしだ。

    

母屋で

主人夫婦を みまわり、

かわいい 子どもたちを 見た。

   

 

ひとは、どこから くるのだろう

こどもが 親になり、また、そのこどもが 親になる

にぎやかに、たのしく くらし 年老いて

どこへ いくのだろう

   

   

トムテは つぶやいた。

  

 「むずかしすぎる。わしには やっぱり よく わからん

      

   

トムテは、屋根裏小屋で ひとりで くらしている。

      

外では、すべてが こおりつき

かなたの 滝の ひびきが きこえてくる。

時のながれの 音のように。

星が つめたく またたいている

     

ねむらないのは 

こびとの トムテ ただひとり。          

            

            ・・・

「トムテ」は、訳者のあとがきによれば、スウェーデンの詩人リードベリが、1882年に発表した詩です。詩の中で、トムテはつぶやきました。「わたしたちは、どこからやって来て、いったいどこへいくのか」と。トムテの問いは、わたしたちの根源的な問いです。その疑問は解けることはありませでした。しかし、しんと静まった幻想的な夜、今日も眠らずに、トムテは夜番をして、家族と動物たちを見守ります。私たちがすべきことを暗示するかのように。

 


我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」 ポール・ゴーギャンの作品タイトル(1897年)   

      

       ・・・

※『トムテ』 リードベリ作、ウィーベリ絵、山内清子訳 偕成社 1979年  (2025/1/26)

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