だれでも、ひとりでいたいときがあります。絵本のクマも、そのひとりです。
・・・
ピアノを ひく クマ。
クマが かなでる 音楽は とても うつくしい。
まわりの みんなは いいます。
「もっと もっと、ピアノのクマさん!」
「もっと もっと、もっと きかせて!」
「また、こんどね」
クマは 木の上で のんびり したいのです。
走って にげても
木に のぼっても 聞こえてきます。
「もっと もっと、ピアノのクマさん!」
「もっと もっと、ピアノのクマさん!」
もっと!
もっと!
もっと!
クマは みんなのことが こわくなって・・・
グオーッ
「やっと ぼくひとりに なれた」
でも、おや、ただひとり シマウマが のこっています。
「あなたの ピアノを きくと うれしくなるわ
こんどは あなたを よろこばせたい
あたし、ほんを よんであげたいの」
「ほんとに ぼくのことを おもってくれるなら
おねがい、ひとりに させて」
「まあ、だったら あたし、どこかへ いきましょう」
「シマウマさん、まって!
ぼく、いいこと おもいついたよ」
「ひとりと ひとりで、いっしょに いよう」
・・・
「もっと もっと、もっと きかせて!」とピアノをせがまれるクマ。クマは、本当は、「きのうえで のんびりしたいのです」。自分だけの時間がほしいと願っています。
だれでも、自分ひとりになれる場所と時間がたいせつです。子どもも同じです。自分だけの世界、他者の目を気にせず過ごせる、場所と時間を持つことがたいせつです。「子どもにも秘密を持つ権利」(コルチャック先生)があります。
「ひとりと ひとりで、いっしょに いよう」
シマウマに向かって言ったクマの言葉ですが、シンプルですが、すてきな言葉です。
多様性を尊重し、みんなといっしょに生きることへの示唆に富んでいます。
・・・
※『クマのひとりのじかん』 マルク・フェルカンプ&イェスカ・フェルステーヘン作、野坂悦子訳、化学同人 2024年 (2024/10/27)