わたしは、ウロ。
「雨」と「露」とかいて、ウロとよみます。
絵を描くのが、だいすき。
・・・
父さんは わたしを 絵かきにしようと決めました。
「ウロ、自画像を 描いてみたらどうだろう」
画材屋で、上等のキャンバスと 出会いました。
「雨露に さらしてつくられた、雨露(うろ)の麻です」
「わたしの名前とおんなじだわ」
それは、
油絵の大家の西窓先生が 注文したキャンバスでした。
しかし、
西窓先生は おととい とつぜん 亡くなられたのです。
ウロは、
そのキャンパスに 自画像を 描きました。
翌朝
キャンバスの自画像を 見ると、
絵具が 流れて
ドロドロの色に なっていたのです。
昼
ウロは、
新しい絵の具を ぬりかさねていきます。
でも、夜が明けると また
ドロドロの色に なっています。
・・・
ウロは、ひたすら 描きつづけました。
でも、自画像は、やっぱり ドロドロに なってしまいます。
「このキャンパス、きらい!
すててしまいたい!」
見かねた母さんは、草むらに キャンパスを かくしました。
「わたしの絵はどこ?」
ウロは 泣きじゃくりながら、さがしまわりました。
月が 空に登り
ようやく
草むらに キャンパスを 見つけました。
2日後
ウロは、8人目のウロを 描きはじめました。
描きおえたウロは、
花柄の布を かけ、
何日も 絵を 見ようとはしませんでした。
数日後
花柄の布を とると、
キャンパスには、まぎれもない ウロのすがたがありました。
絵の中のウロは にっこり わらっていました。
・・・
完成したと思ったら、絵具が流れて ドロドロの色になったウロの自画像。ウロは、苦しみながら7回も、絵を描き直します。母さんが、キャンパスを隠してしまいますが、彼女はそれ見つけ、もう一度自画像を描きます。それは、自分自身と向きあうすがたです。ドロドロになったキャンバスは、成長する子どもの前にたちふさがる壁です。
自画像を描くことを通して、自分自身を見いだすウロの成長物語でです。少年や少女から、大人へと一歩をふみだす若者たちへの応援歌です。
「雨露」には、「《雨と露は地上のすべてのものを潤すところから》広大な恵み」の意味があります(デジタル大辞泉)
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※『わたしを 描く』 曹文軒作、スージー・リー絵、申明浩・広松由希子訳、あかね書房 2024年 (2024/7/3)