シベリアの大自然の夜、朝霧、夜明けをうつくしく描いた絵本です。
シュルヴィッツの絵本『よあけ』へのオマージュです。
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極東シベリアを流れる ビキン川。
あの日、
わたしは じいさんと 舟にのっていた。
黄金の9月
じいさんは、
クロテンや カワウソの 毛皮を 町へ 売りに行く。
夕闇が 迫り、
舟を 岩山に つけた。
祈りの聖地で 酒をささげ 祈り、
火をおこし、夕ごはんを 食べる。
そして、
じいさんの 話を 聞いた。
足に 木の枝が刺さった トラを 助けると、
冬の空腹時に トラが シカを一頭 おいていったという 話。
冬が ちかづく頃
泥の毛が カチンカチンに 凍った
イノシシ同士の けんかの 話。
満天の星を 天の川が よこぎる。
朝霧のなかを 舟を こぎだす
舟がつくる 波が ついてくる。
ヘラジカが 水草を はんでいる。
アビが 鳴いている。
霧が 流れ
陽の光が あふれてくる
そのとき
わたしは黄金色の中にうかんでいたんだ。
シュルヴィッツの絵本『よあけ』は、唐の詩人柳宗元(773-819)の「漁翁」を モチーフにした絵本です。おじいさんと男の子が、夜明けに湖に漕ぎ出します。朝陽が、湖畔の山々と湖を緑に照らしだすところで終わります。
あべ弘士さんの『よあけ』は、シベリアの壮大な自然・光景を描きました。シベリアを流れるビキン川が舞台です。じいさんの神への祈り、トラとイノシシのはなしは、厳しい自然ととも生きる人たちの生活を想像させます。また、絵本に歴史的な奥行きをあたえています。
そして、じいさんとわたしは、紅葉の黄金色のなか、舟を漕ぎだしていきました。
ふたつの作品を重ね合わせると、和歌の本歌取りのように、表現の重層化、深みがうまれます。
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※『よあけ』 あべ弘士作、偕成社 2021年 (2024/11/20)