ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ひこいちばなし』-転んでも、ただでは起きないひこいち

「ひごの ひこいちは、そりゃ おもしろか、とんちな 人でおらした」。熊本県の方言がいきた民話です。

       ・・・

てんぐどんが、剣術の稽古。
「えい えい えっ」

でも、

てんぐは、隠れ蓑を着ていて、すがたが見えない。

隠れ蓑がほしくなった ひこいち。

いっちょ いいこと ある」。

ひこいちが 考えた「いいこと」とは?

     ・ ・・

たかんぼ(たけづつ)をつくり、

ひこいちは、

てんぐの前で、

ああ、みゆる みゆる。京のみやこも みゆるとばい」といい、

飛んだり、はねたり。

物好きなてんぐは、興味津々。

「かくれみの ぬぐぞ。ちいっと かせ」

「だめたい」

かくれみのと取り替えるなら、と言うと

ひこいちは、さも惜しそうに そろっと たかんぼを わたした。

    ・・・

でも何も見えない。

 (ただの竹筒ですから)

てんぐは 赤ら顔をまっかにして ひこいちをさがすが、

ひこいちは、かくれみのを着て もう姿が見えません。

ひこいちは、町で、

飴売りのじいさんに意地悪をする さむらいに出会うと、

さむらいに向かって、

砂を投げ、

足をひっぱたき、

「山のてんぐたい。おぬし まだ、しゅぎょうが たらんね」。

金貸しのだんなには、お化けになって

「おぬしゃ、うらめしい」とからかい、脅す。

     ・・・

しかし、

物置の隅に置いた かくれみのを

あくる朝、

ばあさまが、燃やしてしまった。

ぽあぽあと燃えて かくれみは、すっかり灰に。

でも、そこが それ、ひこいちじゃ

灰をからだに塗りつけ、身を隠す。

ただで芝居をみて、

お城に入ってみる。

でも、おなかが空き、お饅頭をぬすんで 食べたまではいいが……

口のまわりのあんこを 舌で舐め、

灰がはげてしまい、

口お化け。

ひこいちは逃げ、みんなは追う。

もう おおさわぎだったということじゃ

あと しらん、そればっかり

 

      ・・・

ひこいちは、とんちが効く人物です。頭がよいとも言えるし、ずるがしこいとも言えます。飴売りの爺さんを助け、さむらいを懲らしめるところは義侠心もあり、勇気もある人物です。お化けになって、けちん坊の金貸しをからかい、憂さ晴らしをやってのける。隠れ蓑が燃やされても灰をつかって身を隠す。転んでも、ただでは起きない人物。でも、最後は、食い意地がはってぼろを出し、口お化けといわれ、みんなに追いかけられます。作者は魅力的な人物、ひこいちを描き出しています。
また、熊本県の方言を生かした、文体の魅力を感じる絵本です。

     ・・・

※『ひこいちばなし』大川悦生文 蓑田源二郎絵 ポプラ社 1967年  (2020/5/27)

SHARE