ふるはしかずおの絵本ブログ3

『にじをかけたむすめ』- 刺繍から龍が出る

中国・苗族の むかしばなしです。

    

     

むかし、ある村に

花辺(ホアビエン)という刺繡かざりが、

上手な むすめが いました。

      

むすめk

もとに、たくさんの人が 刺繍を 習いにきました。

むすめは ていねいに 教えました。

 

 「根気よくね。かならず うまくなるから!」

 

  

噂をきいた 王さまは、

むすめを お城に つれてこさせました。

        

 「どうか、村に 帰してください」

      

 「七日以内に、見事なオンドリを 刺繍してみせよ

  できれば、願いを かなえてやろう」

     

    

昼も夜も 刺繍し

七日目に オンドリを しあげました。

むすめは 指をかみ トサカを 赤く染めました。

ひとつぶの涙が オンドリの口に ころがりこむと・・・

  

 バサバサ!

   

オンドリが あらわれ、

王さまの額を ひっかき、飛び去っていきました。

    

    

王さまは、キンケイを刺繍せよ、と命じます。 

キンケイも、 

バサバサバサ!

王さまの首すじを ひっかき、飛び去って行きました。

   

   

こんどは

天上の龍を 刺繍してみせよ、と命じます。

   

七日目に 龍ができあがると、

むすめは

むすめは 指をかみ ねがいをこめ、

龍のひげを 赤く 染めあげます。

真珠のような涙が ひとつぶ 龍の口に ころがりこみました。

   

  バサ バサ バサ バサ!

    

龍が 飛び でました。

   

    

龍は 火の玉を 吐き

城を 燃やして しまいました。

むすめは

龍にのり、はるかかなた 天へと 昇っていきます。

    

 ほら、雲にかかる 色とりどりの にじ、

 あれは、むすめが ししゅうを したものなのですよ。

      

             ・・・

話にえがかれたむすめは、やさしく、故郷を愛するうつくしいこころの持ち主です。

「むすめ」の心根をあらわすように、画家はとてもうつくしい人物を描きました。また、刺繍から飛びでる、オンドリ、キンケイ、龍は、とても迫力ある絵です。むすめを気遣うような龍の目、火の玉を吐きだす姿、天上で娘をみまもる龍の姿は、印象的です。

    

宝迫典子さんの「あとがき」によると、文字をもたなかった苗族は、歌、おどり、手芸作品で民族の神話や歴史を伝承してきました。また、刺繍は、母からむすめにうけつがれ、献上や販売が目的ではなく、自分や家族のためのものでした。

     

龍は幸福をもたらす瑞獣です。苗族にとって龍は敬愛の対象であって、けっしておそれるものではありません」(「あとがき」)

    

     ・・・

※『にじをかけたむすめ』 宝迫典子文、後藤仁絵 BL出版 2024年  (2024/8/18)

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