ふるはしかずおの絵本ブログ3

『こんや、妖怪がやってくる』- 「民話には共感し合える力がある」

中国の少数民族トゥ族の昔ばなしです。

     

    

むかしむかし、

ある村に おそろしい妖怪が すんでいました。

ざんざら髪、青黒い顔、するどいきば

うまでも うしでも てあたりしだいに 食べてしまいます。

   

おばあさんの 子牛も ひとのみにしました。

   

       

 「どなたか、わたしをたすけておくれ

     

   

おばあさんが なきなき 歩いていくと、

たまごに であいました。

たまごは 言いました。

     

     

 「だいじょうぶ、きっとたすけてあげるから

 

 

おばあさんが なきなき 歩いていくと、

ぞうきんに 声を かけられ、

「きっとたすけてあげるから」と 言われます。

 

 

 かえる

 こん棒

 火ばさみ

 牛の ふん

 おもたい石の ローラーも

 「きっとたすけてあげるから」と 言いました。

  

   

妖怪が やって きました

暗闇で なにも 見えないので、

妖怪が いろりの 燃えさしを ふくと・・・

ぱあーんと たまごが はじけて、妖怪の目に ぺたりと はりついた。

  

 「いてててて!

   

ぞうきんが びんたを くらわし

かえるは ぴたっと 鼻を ふさぐ

 

 「く、くるしーい!

   

火ばさみは 妖怪のしっぽを がっちり はさむ

こん棒が ぽかぽかぽか。

   

  

牛のふんに すべって、ひっくりかえり、

おもたい石の ローラーが、妖怪のうえを

ごろごろごろ・・・

     

 

妖怪はひらたくのびて、ぺっしゃんこ

 

村人たちは安心して、暮らせるようになりました。

 

            ・・・

日本の「さるかに合戦」の後半によく似た展開です。たまご、ぞうきん、こん棒、かえる、火ばさみ、牛のふん、石のローラーは、おばあさんの身近にあるものです。これらが人物となって妖怪退治をするところが痛快です。

     

おばあさんは、「なきなき」歩いて、たまご、そうきんに出会いますが、かえるに会うところからは、もう泣いてはいません。自分に味方してくれる仲間を見つけることができました。また、全体として「です、ます」の敬体の表現ですが、妖怪を退治する場面は「だ、である」の常体になっています。歯切れのよい、きびきびとした表現で、躍動感があります。

              

民話には、民族や文化の違いも国境も越えて、はるか遠くの人びととも心を通わせ、共感し合える力があります」(君島久子さんのあとがき)

      

         ・・・

※『こんや、妖怪がやってくる』 君島久子文、小野かおる絵、岩波書店 2014年  (2025/2/8)

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