偶然、ハエが現れたことで、くまとザンパーノの力関係が変わりました。
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むかしむかし、
くまのサーカス、ザンパーノが 村にやってきた。
ザンパーノは、くまに 曲芸を させます。
「みなさんに、おじぎを しろ」
くまの頭を ムチで こずくと、
くまは おとなしく お辞儀をした。
たるを とんだり、
逆立ちを したり、
宙返りを したり、
曲芸を みせたり
綱渡りを したり
踊ったり・・・
ザンパーノに 言われるまま くまは なんでも やった。
「ザンパーノおじさんって すごいなあ
くまは てむかいも しないや」
ハエが とんできた。
くまは くすぐったくて かなわないい。
手をあげて 追い払おうと したら・・・
綱を 握っていた ザンパーノは
ぐいっと ひっぱられ、
空へ ふわっと 飛びあがった。
くまは ハエを 追い払おうと、
手を ぐるぐる まわす。
ザンパーノも 空を ぐるぐる まわった。
綱が 切れた。
ザンパーノは、遠くへ とんでいって しまったんだ。
くまは?
くまは 森のなかに 消えていった。
ふかい 森のおくで、
ひなたぼっこを しているそうだ。
ザンパーノは、いまも 空を 飛びつづけている。
もう、地面には 降りることが できないんだ。
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語り手の言葉です。
「くまが ちっとも 手むかい しないものだから いい気に なって 自分は つよいと じまんを していたのです。ところが ほんとうは くまの ほうが つよかったんですね」
ハエが飛んでくることで、ふたりの力関係が変わりました。くまは、ハエを追い払おうとしただけですが、それがザンパーノを投げ飛ばすことになりました。こうしたことは、わたしたちの世界にもありそうです。権力者(ザンパーノ)と民衆(くま)のはなしとしても読めそうです。教訓的な寓話です。
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※『くまのサーカスザンパーノ』 ヤノッシュ絵・文、さくまゆみこ訳、アリス館 1979年 (2025/1/8)